9月も終わりが近付き、朝夕肌寒くなって来たそんなある日、カカシは同棲中の可愛い恋人に問い掛けた。

「ナルト、誕生日には何が欲しい?」

「え?誕生日……って、オレの?」

ナルトはきょとんとしてカカシを見つめる。

「当たり前でしょ?」

カカシは思わず苦笑する。
ナルトの答えから、誕生日など祝って貰ったことが無いだろうと言うことが窺い知れる。


ま、三代目辺りは祝ってあげたかもしれないけど、それもきっとナルトがずっと小さい頃だろうし……。


「欲しいモノって……どんなモノ?」

「それを聞いてるの。」

「何でもいいってば?」

「うーん。ま!大抵の物なら買えるだろうしね。」

カカシはこの時心底―――上忍で良かった―――と思った。
その地位に支払われる給料は他の職業とは比べ物にならない程の額で、だからこそ、可愛い恋人の欲しい物をなんでも買ってあげることが出来るのだ。

「えっと……えっと……。」

ナルトは頬を染め、視線をあちらこちらへ動かしながら、必死に考えを巡らせているようだった。
その様子を見て、カカシは自然に顔が緩む。

「いいよ、今すぐじゃなくって。誕生日までゆっくり考えればいいからね。」

すると、ナルトはハッとして、そして……満面の笑みをカカシに向けた。

「決めた!これしかないってば!」










あなたがここにいるだけで










10月10日。
ナルトは肌寒さを感じ、ベッドの中で身じろぎをした。
すぐ横にあるぬくもりに躊躇いもなく擦り寄る。
ふわりと温かくなった感覚にゆっくりと目を開ければ、肌蹴てしまっていた毛布を、カカシがナルトの肩までかけてくれているところだった。
ナルトははんなりと微笑む。

「ありがと、せんせ……。」

カカシはにっこりと微笑み返す。

「おはよ、ナルト。」




久し振りにゆっくり出来る朝だった。
本日、第七班の任務は休み。
それがナルトの望みだった。


『オレってば、一日中カカシ先生と一緒に居たいってば。ず〜っとだってばよ?』


任務ともなればそうも行かない。
カカシはナルトの望みを聞いた翌日、五代目火影にそれを伝えた。
ツナデはそれを聞き、目を丸くして見せたが、小さく溜息を吐くとカカシを忌々しそうに見遣った。

『仕方ないね。それにしても、ナルトは本当に欲の無いガキだよ。』

がさつな言葉遣いの中に愛情が篭っているのをカカシは知っていた。
ツナデに向かって深く頭を下げると、ツナデは苦笑する。

『あのガキを悲しませるような事があったら、命は無いと思いな。』

そうしてカカシは、ナルトの誕生日に『第七班の任務及びカカシの単独任務は無し』と言うプレゼントを用意したのであった。



カカシはベッドを降りてキッチンへ向かった。
着ていなかったパジャマの上を羽織ると、ナルトがトテトテとついて来た。

「いいよ。まだ寝てな?身体、だるいんじゃない?」


昨夜はちょ〜っと無理させちゃったからねぇ……。


カカシはナルトをひょいと抱き上げると、寝室へ引き返そうとした。

「あ!やだ!やだってば!カカシ先生!」

ナルトは足をばたつかせながら叫んだ。
カカシは面食らい、慌ててその場にナルトを降ろした。

「ど、どうしたの?」

「ず〜っと一緒!って、言ったってば!」

真っ赤になってぷうっと膨れてカカシを見上げる。

「え?家の中でも?」

「勿論だってばよ!」

「えーとね、ナルト。」

カカシは人差し指でポリポリと頬を掻く。

「トイレは……いい?」

ナルトはぽかんとカカシを見つめ、次の瞬間更に顔を紅く染めて叫んだ。

「当たり前だってばよ!」







ナルトは椅子に腰掛け、朝食を作るカカシを嬉しそうに見つめる。

今日はカカシ先生とずっと一緒。
ずっとずっと一緒だってばよ?
今日はオレの、オレだけのカカシ先生だってば……。


「あ、そうだ、ナルト。」

カカシはそう言って手を止め、寝室へ向かい、またすぐに戻って来た。
綺麗にラッピングされた包みをナルトに渡す。

「せんせ……?」

「プレゼントって程の物じゃないんだけどね。そろそろ寒くなって来たし、別にあっても邪魔にはならないと思ってさ。着てくれたら嬉しいよ。」

ナルトが丁寧に開けた包みの中身は、この季節に丁度いい長袖のTシャツとズボンだった。
綺麗な茶系でまとめられている。

「部屋着にどう?色々迷ったんだけど、それが一番ナルトに似合いそうだったから……。」

心配そうなカカシに、ナルトはとびきりの笑顔で応える。

「カカシ先生、ありがとう。着てみていい?」

「勿論!」

ナルトは寝室へ入り、急いでパジャマを脱ぎ、カカシからプレゼントされた服を手に取った。
カカシ先生、これをいつ買ったんだろう。
任務の後、報告所を出しに行って、その帰りかな……。

ナルトは、カカシが自分の服をあれこれ迷いながら選んでいる姿を想像してクスリと笑った。

カカシ先生は、これを選んでくれてる時オレのことを考えてくれてたってば。
離れてる時もオレのこと考えてくれるって、なんだかとっても嬉しいってばよ。

手早く着替えを済ませてナルトがキッチンへ戻ると、テーブルに朝食を並べていたカカシが振り返った。

「うん、とってもよく似合ってる。」

カカシの見立てたその服はナルトによく似合い、サイズもピッタリだった。
満足そうなカカシの笑顔を見て、ナルトは照れくさそうに微笑んだ。




「ナルト、どこか行きたい所はある?」

トーストにハチミツをたっぷり塗っているナルトに、カカシは声を掛ける。
ナルトは手に付いたハチミツをペロリと舐める。

「無いってばよ。」

「買い物でも行く?」

「行かない。」

「え?何処へも行かないの?」

驚いた様子のカカシを見て、ナルトは顔を上げた。

「行かないってばよ。」

ナルトは即座にそう答えてから手を止め、不安そうにカカシを見つめる。

「カカシ先生は何処か行きたい所あるってば?」

「ん?いや、別にないけどさ、お前はいいの?折角の誕生日なのに、家に篭りっきりで。」

「うん、いいんだってば。」


だって今日はカカシ先生を一人占めしたいから。
誰にも見せてあげないんだってば。
今日だけは……。
オレの、オレだけの『はたけカカシ』なんだってば。
それってすげー贅沢だってば?


「なーに?何笑ってんの?」

「秘密、だってばよ。」





二人だけの休日。
久し振りにのんびりと、何をするでもなく二人で他愛の無い話しをして過ごす。
それでもナルトは普段とは違う種類の幸福を味わっていた。

昼食の後、ソファで並んでテレビを観ていると、ふいにカカシの肩が重くなった。

「眠くなったの?」

コテンと頭を乗せて来たナルトに、小さく聞いてみる。

「ん……。」

ナルトは既に眠りに落ちる寸前で、カカシは苦笑した。

やっぱり昨夜無理させちゃったからねー。

ナルトの身体をそっと抱き上げベッドへ運ぶ。
肌寒いのか、身体を丸めたナルトに毛布をかけてやって、カカシもその隣に身体を滑り込ませる。
すやすやと寝息を立て始めたナルトを飽きる事無く暫く見ていたが、カカシもまた眠りに落ちて行った。






ナルトはガバッと飛び起きた。

「えっ!?あ、あれっ?」

「んー?どうしたの?ナルト……。」

カカシが腕を伸ばしてナルトを再び毛布へ引き込もうとする。

「せんせ、オレ、眠っちゃったってば?」

確かテレビを観てた筈で……。
ソファに居て……。
カカシ先生が運んでくれたの?

「よく眠ってたよ。疲れが堪ってたんだね、ナルト。」

カカシはゆっくりと身体を起こした。

「先生も眠ったってば?」

「ん、『ナルトを襲っちゃおうかなー』って思ったんだけどね……。」

にっこり笑って軽口を叩くカカシに、ナルトは擦り寄った。

「先生も疲れてたってばね。」

「そうだね、ナルトのお陰でよく休めたよ。」

ナルトの肩を抱きながら時計を見れば、すっかり夕方になっていた。

オレってば眠っちゃって……ちょっと勿体無かったってば。
でも、ほんとにずっとカカシ先生と一緒にいられたから、いいってば。









夕食は二人で作り、二人で後片付けをしている最中に、ふいにカカシが呟いた。

「ん、届いた。」

「え?何だってば?」

玄関に向かったカカシの後をついて行ったナルトが見たのは、重そうな袋を口に咥えた忍犬だった。

「ご苦労様。ありがとう。」

カカシが袋を受け取り、頭を撫でると、忍犬は煙と共に消えた。

「先生?お使い頼んであったってば?」

「誕生日にはこれが必要だからね。」

カカシが袋から取り出した四角い箱の中にはバースデーケーキが1ホール。
ナルトはそれを見て、カカシの腰にしがみついた。

「カカシ先生、ごめんなさい。オレが―――何処へも行かない―――なんて我儘言ったから……。お使い頼まなきゃいけなくなったってば……。」

「なー言ってんの。謝ることなんて何もないよ?」

カカシはそっとナルトの頭を撫でる。

「でも……、あ、そうだ。カカシ先生の忍犬達も一緒にケーキ食べればいいってば。ね、先生、そうしよ?」

その言葉にカカシはにっこり微笑んだ。

「その気持ちだけで充分。あいつらに甘い物は厳禁だからね。今度口寄せした時、一緒に遊んでやって?あいつらも喜ぶからさ。」

「そっかぁ……。うん、わかったってばよ。」

「勿論、ナルトも食べ過ぎてお腹壊さないようにね。」

片目を閉じて見せたカカシに、ナルトは満面の笑みで答えた。

「解ってるってばよ。だからカカシ先生、半分食べてってばね。」










ちょっと無理して食べ過ぎたねー。
あんなにケーキ食べたこと無かったし……。

カカシが胃の辺りを押さえつつ風呂から上がると、先に風呂を済ませたナルトはベッドの上に腰掛けてぼんやりと夜空を見つめていた。

「どうしたの?」

「うん……。終わっちゃったなぁ……って思ってたってば。」

「終わっちゃったって……何が?」

カカシはナルトの横に座ってナルトの視線の先を見つめる。
そんなカカシを見て、ナルトはクスクスと笑った。

「外には何にも無いってばよ。オレの誕生日が終わったってことだってばよ。」

「あ、そうか……。ほんとに何処へも行かなくてよかったの?」

ナルトが後悔しているのではないかと、カカシは幾分不安になった。
自分の問いかけに中々返事をしないナルトに、カカシが焦って声をかけようとした時、ナルトが漸く口を開いた。


「先生、オレね、今日はカカシ先生を一人占めしたかったんだってばよ。」


「え?」

「カカシ先生を誰にも見せたくなかったんだってば。だから何処へも行かなかった。今日一日、オレだけのカカシ先生でいて欲しかったんだってば。」

ナルトはカカシを振り返り、淋しそうに微笑んだ。
その表情を見て、カカシはナルトの肩を抱き寄せた。

「オレはいつだってナルトのモノだよ?解ってたんじゃないの?」

その声音が真剣な物だってので、ナルトは何も言えずにカカシを見上げた。
カカシは苦笑すると、ナルトから視線を外して空を見つめる。

「あのね、ナルト。人間はね、生まれて来る時神様から『あなたの人生はこれこれこう言う人生になるけれど、それでも生きてみますか?』って聞かれているんだって。だからお前もオレも、『それでも生きてみる』って……言ったんだろうね。」

カカシの話しを聞いてナルトの顔が苦渋に歪んだ。

「そ……なんだ……。だったらさ、だったら……オレってばすげーバカだってばよ。」

ナルトは苦笑する。
自分で望んだ訳ではなく生まれた時からその身に九尾を宿し、里の者から忌み嫌われ、受けて来た言葉の暴力や肉体的暴力は数えきれない程だった。
それを知っていて、尚且つ―――生きてみる―――と言った自分の気が知れない。
アカデミーを卒業する直前、自分の中に九尾が居ると知り、自分が生まれて来た価値は九尾の器としてしか無かったのだと思った。
そんなナルトの心の内を見透かすように、カカシは小さく微笑んだ。

「生まれて来なければ良かった―――って……そう思う?」

ナルトは俯き、何も言わない。
それは、肯定を示しているものに違いなかった。
カカシはナルトの金糸に手を伸ばすと、そっと撫でる。そして、静かに言葉を紡いだ。


「オレは生まれて来て良かったって思ってるよ。お前に会えたから。」


ナルトがビクッと肩を震わせて、顔を上げた。





「ナルト……。生まれて来てくれてありがとう。」





心からそう思っているのだと、それがはっきり解るカカシの言葉に、ナルトは息を呑んだ。

「せんせ……。」

「お前が生まれて来てくれて本当に良かった。生まれる前、神様の前で『それでも生きてみる』って言ったお前に感謝するよ。ありがとう、ナルト。」



―――ありがとう―――



先生が今言った言葉は、九尾の器になったことへの言葉じゃなくって……。
里を救った四代目の役に立ったとか、そんなんじゃなくって……。
そうじゃなくって……。


「オレに……会えたから……?」


「そうだよ。ナルトに会えて、お前を好きになって、愛して……。お前もオレを好きになってくれて、愛してくれて……。オレは本当に幸せだから……。だからね……。」

カカシはそこで言葉を切って、ナルトをそっと抱き締めた。



「ナルト、ありがとう。」



「カカシ……先生……。」

腕の中のナルトが声を震わせる。

「辛い事、いっぱいあったよね。お前が受けて来た仕打ちを、痛みを、オレが解る筈も無いけれど、お前が―――生まれて来なければよかった―――って思う気持ちは当然だと思うよ。それでもね、お前が生まれる前に『それでも生きてみる』って言ったのはさ、オレに会えるからだったって、オレに会いたかったからだって……勝手に思っちゃってもいい?」


カカシが腕を緩めてナルトを覗き込めば、その大きな瞳からは透明な雫が溢れていた。


「ねぇ、ナルト。自惚れさせてよ。」


頬を伝う涙をカカシが親指で拭うと、ナルトはカカシの胸にしがみ付いた。

「せんせ……自惚れてる……てば……。」

「やっぱり?」

「オレってば……火影……なる為に生まれて来た……ってばよ……。」

「うん、そうだね……。」

止め処なく溢れて来る涙のせいで上手く声も出せないでいるナルトの髪を、カカシはゆっくと、愛おしげに、撫でて行く。

「でも……でも……せんせ……。」

「ん?」





「会いたかった……ってば。」





「ナルト……。」

カカシの手が止まる。





「カカシせんせ……会いたかったよぉ……。」





魂が呼び合う―――。


そんな風にしか思えない出会いだった。
いくつもの偶然と必然が、絡まり合って、いくつもの哀しみと苦しみを経て、そうして自分達は出会ったのだと思う。


「オレも……会いたかったよ、ナルト。お前に……。」

カカシはナルトを強く抱き締めた。


この里に生まれて、四代目に出会い、そして教えを受け……。それでも、その尊敬していた師でさえ命を奪われ……。
心も荒んだ―――。
命など惜しくないと思ったことは数え切れない。
だが今は死が恐い。
ナルトを一人にするのが……。何よりも……ナルトと離れたくない。
ナルトを失いたくない。
それ以上の恐怖は有り得ない。

二人……ここまで来られたのは、お互いに会えるのだと知っていたから―――。
それを解っていたからこそ生きて来られた―――。
そう思うのは少しも不思議じゃない。



「ナルトの12年に対してオレは26年も待っちゃったけどさ。」

カカシが苦笑すると、ナルトは小首を傾げて見せた。

「へへ、お待たせしましたってば。」

「それでも、待った甲斐はあったけどね。こんなに可愛い恋人が出来たんだから。」

カカシがナルトの頬を撫でると、ナルトはその手に両手を添えて、瞳を閉じた。

「オレも、カカシ先生に会えてほんとに良かった。せんせ、生まれて来てくれてありがとうだってば。」

「ナルトがそう思ってくれて、最高に幸せだよ。」

カカシはそう言って、ナルトの身体をベッドに横たえる。

「ね、ナルト。最高に幸せなんだけどさ。お前がここに居る―――ってこと、もっと実感させて貰ってもいい?」

「え?」

「オレの腕の中に居るんだ……って、感じさせてよ。」

「せんせ……んっ……!」

ナルトの了承を得る前に、カカシはその唇を奪っていた。
軽い口付けから、やがて貪るようなそれに変えて、ナルトの思考までも奪って行く。
ナルトが激しく甘い口付けに酔いしれる頃には、カカシの手は明らかに目的を持ってナルトの肌を弄り始めていた。
今更抵抗する気など無かったが、ナルトは一応、念の為に、カカシに囁く。

「明日は任務だから……せんせ……無茶はしないでってば?」

自分の首に両手を絡ませたナルトに、カカシは満足そうに微笑み、そして答えた。

「努力します。」







カカシの言う『努力』が口だけのものだったのは言うまでもなく、ナルトは休みの翌日だったにも関わらず、だるい身体を引きずりつつ任務をこなしたのだった……。








END






カカシがナルトに話して聞かせたことは、何かの雑誌で読者の方が投稿していた記事です。これを見た時『こんな考え方もあるんだ……。』と、結構な衝撃だったのです。で、是非ともカカシからナルトに言わせたくなっちゃいました(笑)
甘々で相思相愛v日常風景+αと言うなんの変哲もない話しですが、気に入って頂けたら幸いです。ご感想等お待ちしておりますv

火野 晶





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