お願いだから……
オレだけを好きでいてね―――?






独占欲







「先生!カカシ先生!起きてってば!」

「ん〜、ナルト、今日は任務休みでしょ?もう少し寝かせて……。」

「何言ってんだってば!今日は修行つけてくれるって約束したってば!?」

少し前から起きていて、それでもカカシが起きるのを辛抱強く待っていたナルトが、遂に我慢出来なくなり、カーテンを全開にして叫んだ。
とても良く晴れている。
陽の光が眩しくてカカシは布団に潜り込んだ。

「わかった……わかったから、もう少しだけ……。」

「先生のバカ!!昨夜あんなにヤるからいけないんだってばよ!!」

余程怒っているらしく、普段なら絶対に口にしない類の事が、ナルトの口から飛び出る。

だってそれはお前が可愛過ぎるからであって……。
不可抗力と言うか……。
大体オレが眠いのは昨夜のせいじゃなくて、ナルトが寝た後上忍としての任務に頻繁に出掛けてるからだし……。
ん〜、でも、ナルトにそれだけ元気があるんならもう少し無理させちゃっても大丈夫かなぁ……。

不届きなことを考えつつも可愛いナルトの為、布団から顔を出そうとした時、ナルトが“ボフッ”と布団の上からカカシを殴った。

「もういいってば!一人で行く!」

ナルトはドタバタと身支度を済ませると、そのまま食事もせずに出て行ってしまった。

あらら、遅かったか……。

カカシはのそりと起き上がると、コーヒーを淹れ、少しぼ〜っとしてから掃除を始めた。

昼近くなっても戻らないナルトに、溜息を一つ吐いて家を出る。
ナルトの秘密の修行場(と言っても結構知られているのだが)へ向かって歩いて行くと、帰って来る途中だったナルトに会った。

「カカシ先生!」

走り寄り、抱きついて来るその存在をカカシは大事そうに抱き締めた。

「ゴメンね?ナルト。腹空いたろ?一楽にでも行くか?」

「やったー!!カカシ先生、大好きーっ!」

カカシはホッと安堵の息を漏らした。
どうやら機嫌は直っているらしい。

でも、なんで?
何かいいことでもあったのか?

「オレ、大盛り〜っ!大盛りだってばよ?早く行こー、先生!」

「はいはい。」

カカシはナルトに手を引かれ、思考を中断し、その笑顔に見入っていた。





数日後、久し振りに早い時間に任務報告書を出し終えたカカシが、ナルトの修行場へ寄ると、自分より少しだけ早く来た人物がナルトに声をかけた所だった。

「ナルト。」

「あ、シノ。任務終わったってば?」

油女シノ?
何故奴が此処に?

カカシは身を隠し、気配も消して様子を伺った。

「ああ、今終わった所だ。ナルト、これ。」

シノはナルトの前にガラス瓶を差し出した。
中にはとろりとした透明な黄色い液体が入っている。

「え?」

ナルトはキョトンとシノを見つめる。

「やる。」

差し出された瓶を受け取ると、ナルトが頬を赤くして叫んだ。

「わっ!!これってばあのハチミツ!?」

「そうだ。」

「すっげー!!すっげー!!嬉しいってばよ!シノ、サンキュー!」

ナルトはそう言ってシノに抱きついた。

「な……!!ナルトっ!?」

カカシは思わず叫び、飛び出していた。

「これってばすげー美味いんだよなー。」

瓶をうっとりと見つめるナルトの腰に、シノの手が回る。

「ナルトっ!!離れなさい!!」

慌ててナルトを引き剥がし、ガッシと抱き締める。

「カカシ先生?」

見上げるナルトのなんと愛らしいことか。
カカシは、もし今自分がこの場に居なかったらと思うとゾッとした。
自分がどんなに危険な状態だったのか少しも考えず無邪気な目を向けるナルトに苛立ちさえ覚える。

「全く……何やってんの?」

少しムッとした様子のカカシに気付きもせず、ナルトは嬉々として両手で握り締めた瓶をカカシに見せた。

「見て見てカカシ先生、これ貰ったんだってば、ハチミツ。」

「ふーん、で?それが何?」

「これってばシノが飼ってるミツバチが集めたミツなんだってばよ。凄く美味しいんだってば。」

愛しそうにハチミツの瓶を見つめるナルトに、カカシは先程から疑問に思っていたことを口にした。

「何で知ってるの?」

「へ?」

「だから、何でそれが、美味しい―――って知ってるのか聞いてんの。」

大体そんな話し、聞いてないよ?
いつの間にシノと二人で会うようになったの?

此処で漸くナルトはカカシが不機嫌なことに気付いた。
そしてその理由も……。

カカシ先生ってば、オレがハチミツのこと言わなかったから怒ってるんだってばね。
でも、そんなこと言う必要も無いし、あの時オレはすっごく怒ってたんだってばよ。
だから、謝ったりしないってば。

「この間、ここで修行してたらシノがホットケーキを焼いて持って来てくれたんだってばー。んで、このハチミツ付けて食べたんだってばよ。」

「へー、そうなの。お前、一人だったの?その時。」

「うん、一人で修行してたってばよ?カカシ先生がオレとの約束破った時だもの。」

「約束?」

カカシが怪訝そうな顔を向ける。
ナルトはそこで、少しだけ淋しくなり、俯いた。

「修行つけてくれるって約束してた朝。」

「あ……。」

カカシは息を呑み、心の中で舌打ちしてからギロリとシノを睨んだ。


油断も隙もあったもんじゃない。
こいつ、ナルトがここで修行してるの知ってて、チャンスを伺ってたわけか……。
しかもオレに構って貰えなくてスネてるナルトに付け込んで、食べ物で釣るなんて、卑怯な真似を……。

「じゃ、ナルト。家に帰ってホットケーキ食べよっか。」

カカシがニッコリ微笑んで提案すれば、ナルトの表情が途端に明るくなった。

「わ!カカシ先生、作ってくれんの?」

「作るよー。そんなの簡単じゃない?」

ホットケーキくらいでナルトの気を引けると思ったら大間違いだよ。
そんなので良ければオレがいくらだってナルトに作ってやれるからね。

「じゃあさ、じゃあさ、シノも来ればいいってばよ!」

「え……!?」

カカシとシノ、二人同時に声を上げる。

「な?シノ、来るってば?」

「……いや……オレは……。」

「何か用事あるってば?」

ナルトのくりくりとしたまあるい瞳で見つめられ、シノは心拍数が上がるのを感じながらチラリとカカシを見た。
何食わぬ表情で自分を見てはいるが、明らかに殺気を孕んでいる。
シノはナルトに向き直った。

「ああ……ちょっと……。」

途端に顔を曇らせるナルト。

「そっかぁ……残念だってば。じゃ、明日ここで一緒に修行しようぜ?な?」

「わかった。」










翌日から、カカシはまたイライラを募らせることとなった。
任務の後、ナルトは毎日修行をしてから帰って来る。
以前ならばカカシの帰りが早い時は自分も早く帰り、二人きりの時間を満喫したと言うのに、最近はギリギリまで帰って来ないので、そんな時間も持てない。
おまけにクタクタになったナルトが起きていられる訳もなく、ベッドに入ればすぐに寝息を立て始める。
カカシは、無理矢理襲ってしまいたいと言う欲望と戦い乍ら、泣く泣くナルトの横で大人しく眠るしかなかった。

その日、早く帰ることが出来たカカシは、また修行場へ足を運んだ。
最初から気配を消して……。
すると案の定、愛しいナルトと一緒にあのシノが居た。

「ナルト、お前は人一倍スタミナがあるし、戦闘時に於ける勘も冴えている。だが、集中力に欠ける点がある。解るか?」

「うん……なる程な。解るってばよ。」

ちょっとちょっとナルト。何なの?その素直な反応は……。
シノの奴、飴と鞭の使い方、上手過ぎだって……、子供のくせに……。
オレのナルトをどうするつもり?

「それにはまず落ち着く事だ。落ち着いて周りをよく見る。そして冷静に判断するんだ。」

シノはナルトの肩に両手を置く。

な……っ!

カカシは思わず声を立てそうになり、慌てた。

「深呼吸して。今の感じを忘れるな。」

「おうっ!任せとけってばよ!!」

屈託の無い笑顔でシノに答えるナルトを見て、カカシはすうっと目を細めた。






上忍の溜まり場となっている『人生色々』。
今日も任務を終えた者達が、くつろいでいた。
カカシは躊躇わずドアを開け中に入った。
奥のテーブルには、アスマ、アンコと共に紅の姿があった。

「紅、ちょっといいか?」

「え?何さ?カカシ。」

入るなりカカシは紅に近寄り、有無を言わさず連れ出した。
町外れの廃屋に着くと、紅を振り返る。
真っ暗な家の中、古びて風通しのよくなった天井や壁から夕陽が射し込む。

「どうしたの?久し振りね、カカシが誘うなんて。やっぱりお子様じゃ物足りない?でも、こんな所じゃ……。」

「紅。お前の班のあのガキ、どうにかしろ。」

紅の言葉には耳も貸さず、カカシはイキナリ切り出した。

「え?」

「シノだよ、油女シノ!」

怒りを露わにして、紅に詰め寄る。

「何さ?シノがどうかしたの?」

「どうもこうもないよ。オレのナルトにちょっかい出して……。」

「は?」

紅が目を丸くする。
自分が連れ出された理由が漸く理解出来た。

「お前、部下の教育甘いんじゃないの?ナルトはオレのモノなんだから、手出さないようによく言っといてよ。」

正に余裕の欠片も無い状態のカカシを、紅は冷ややかに見つめる。

「そんなにあの子がいいわけ?」

カカシはちらりと紅に目を向けた。

「カカシ、どうしちゃったのさ?あんたはそんなんじゃなかったじゃない?誰か一人に夢中になるなんてカカシらしくない。あんなお子様やめて、また前みたいに……。」

紅はカカシの肩に手をかけ、その胸に凭れかかると、言葉を続けた。

「カカシみたいに上手い奴他にいないわ。皆下手クソでさ……。あんな子供に、勿体無い。」

上目遣いに自分を見つめる紅の手を握ると、カカシは自分から引き剥がした。

「カカシ?」

「確かにお前は魅力的だよ?前のオレなら一も二も無くお言葉に甘えてたけどさ、ごめんね。でももう無理。ナルトでなきゃ勃たないのよ。オレ。」

「な……っ」

紅は顔をひきつらせた。
これがあのカカシだろうか……。
誘われて、自分の好みに合えば男女問わず事に応じ、来る者は拒まず、去る者は追わず、決して一人に執着などしない。
今、目の前に居るカカシは、自分の知っているカカシと余りにもかけ離れている。
たかが子供。
しかも少年。
遊びならば頷けても、到底そうとは思えないカカシの言動。

「ご期待に添えないと思うしさ、それに、ナルトしか抱く気にならないから……。」

「冗談でしょ?何言ってんのさ……カカシ……。落ち着いてよ。」

紅はパニックを起こしかけている自分に対しても同じ言葉を投げたかった。

「じゃ、とにかくお前んとこの奴に、これ以上ナルトに近付かないように言っておいて。頼んだよ?」

カカシはそれだけ言うと、煙と共に姿を消した。
残された紅は今起きた出来事を頭の中で整理することも出来ず、唖然とその場に立ち尽くしていた。






「ねぇ、聞いた?カカシさんと紅さん、いい雰囲気なんですって。さっきカカシさんが誘って人生色々から二人で出て行ったそうよ?」

「えー、それってもしかして愛の告白?いや〜ん、カカシさんが誰かのモノになっちゃうなんて〜。」

「でも、あの二人ならお似合いじゃない?悔しいけどさ。」

シノとの修行を終え、家に帰る途中、中忍と思われる女性二人が立ち話しをしているのに出会った。
ナルトは物陰に身を潜め、二人の話しに聞き耳を立てていた。

嘘……どうして?
カカシ先生が紅先生を?
そんなの、そんなの嘘だってばよ……。
だって、だってカカシ先生はオレの恋人だってば。
一緒に住んでいるんだってばよ?
カカシ先生が好きなのはオレなんだってば。

ナルトが慌てて家に帰るとカカシが夕飯の準備を始めていた。

「お帰り〜、ナルト。」

「先生、早かったってばね。」

「うん。腹空いただろ?すぐ出来るからね。」

洗面所で手を洗い、再び自分の隣に立ったナルトに、カカシは微笑みかける。

「先に風呂入って来てもいいぞ〜。」



「先生、今日紅先生と会ったってば?」


一瞬カカシの顔が凍りついたのをナルトは見逃さなかった。

「ん?何の話し?」

けれどすぐにいつもの笑顔で問い返される。
ナルトは怯まず続けた。
聞かずにはいられなかった。

「だって、そう聞いたってばよ。『人生色々』から二人で出て行った―――って……。」

「ああ……あれね、あれは……その……任務のさ、上忍の任務の話しをしたんだよ。そうそう、忘れてたな〜、ハハハ。」

カカシの乾いた笑いは、それが嘘だと物語っていた。
上忍のウソにしては余りにもお粗末である。


何で隠すの?
やっぱり……やっぱり『愛の告白』をしたってば?
オレが居るのに……?

ナルトは風呂に入った後、食事もそこそこでベッドに入ると、カカシに背を向け寝てしまった。

今日もおあずけか〜。
最近折角上忍としての任務が少ないってのに……。

カカシは大きな溜息を吐き、ナルトの横に身体を滑り込ませ、目を閉じた。


先生ってば、あんなに大きな溜息吐いて……。
オレと寝るのが嫌になったんだってば?
最近全然、し、シテないし……。
絶対絶対おかしいってば。
先生のバカ!!

ナルトはカカシに気付かれないように必死で堪えたが、涙が零れるのを止めることは出来なかった。










翌日、カカシは任務を終えると解散の挨拶もそこそこで報告書を提出に行った。

カカシ先生……。
紅先生に会いに行ったんだってばね……。
そんなに好きなの?


カカシには、そんなナルトの気持ちに気付く余裕など微塵も無かった。
報告書を出しに行った先で、運良くカカシは紅とバッタリ出会った。
目配せして建物の陰で待ち合わせた。

「紅、あいつに言ってくれた?」

昨日の今日である。
正にナルト一直線のカカシが目の前に居た。
紅は溜息をひとつ吐き、カカシを見据える。

「カカシ、そのことだけど……本気なの?」

「何?当たり前でしょ?」

「だったら自分で言って。シノは今帰った所だから。今日は研究したいことがあるって言っていたから、あの子のお気に入りの場所に居ると思うわ。」

「そう?じゃ、それでもいいや。ケガさせちゃうかもしれないからお前に頼んだんだけどさ……。場所は?」

カカシは紅からシノの居場所を聞くと、音も無く消えた。

紅はその場に座り込みたい衝動に駆られたが、脱力する足を引きずるように、『人生色々』に向かって歩き出した。
事の次第を誰かに話すことなど出来はしないが、ストレス解消の為にも他愛ない話しがしたかった。




「紅先生。」




道に出た途端、声をかけられた。
恐らくこの場で自分を待っていたのだろう。



「何?ナルト。」



ナルトは怯えたような、それでいて挑むような目を向けていた。
大体察しはつく。
カカシと自分の昨日の様子が誤解され、噂になっているのは知っていた。
紅はナルトを促し、人気の無い所まで案内した。






「で?何?」

紅が真っ直ぐナルトを見つめると、ナルトも負けじと真っ直ぐに目を向けて来た。

「紅先生……、昨日、カカシ先生と何話したってば?」

昨日だけじゃなくて、さっきも話したけどさ……。
紅はナルトの聞いていることが何のことか解っていたが、敢えて問い返した。

「何って?」

「カカシ先生に……こ……告白されたってば?」

あら、可愛い。
この子一人前に嫉妬なんかしちゃってる。
真っ赤になって、オロオロしちゃって……。
フフフ……カカシ、見てらっしゃい?
私の誘いを断った罰よ。
吠え面かかせてやるから。


「告白……そうね、されたわねー。」

紅は上を向き、そのことを思い出しているかのような仕草をして見せた。
途端にナルトはしゅんと俯いてしまった。


「やっぱり……やっぱりカカシ先生ってば、紅先生のことが好きになったんだってばね。」

「悔しい?カカシのこと、好きなんでしょ?」

「……仕方……無いってば。」

あらまぁ、意外とあっさりしてるのね、所詮はお子様よね。
バカなカカシ。
本気なのはアンタだけじゃないの。
目を覚ましなさい。

「紅先生は綺麗だし……。」

え?

「カカシ先生と同じ上忍で……強いし……、年齢(とし)も同じくらいだし、お似合いだってば……。」

やだ……この子……。

「オレってば何の取り得も無いガキで……カカシ先生と釣り合う筈、無いってば……。」

ナルトの双眸からポロポロと涙が零れ落ちた。

「オレがいくら好きだって……そんなの……無理な話しだったんだってば。」

カカシ……あんたってほんと……大バカ。
この子の何処見てたのさ?

「私じゃないわよ。」

「へ?」

紅の言葉にナルトが弾かれたように顔を上げた。

「カカシが好きなのは私じゃないわ。」

「じゃ……じゃあ、誰なんだってば?カカシ先生は誰を好きなんだってば?」

ナルトは紅に詰め寄った。
必死になって聞き出そうとする。

「私もカカシから相談されちゃって困ってるのよ。だから『自分で言いなさい』って言ってやったの。いくら私の部下でもねー。」

「部下……って?それじゃ……それじゃカカシ先生の好きな人って……。」








「シノよ。油女シノ。」








ナルトの顔面が蒼白になった。

「ちょうど今、二人で会ってる所だと思うわ―――。」

ナルトは紅から二人の居場所を聞くと、すぐさま駆け出した。







「お前、随分とふざけた真似してくれてるね。」

カカシはシノを見つけると真正面から見据えた。
シノは驚いた様子も見せず、答える。

「何のことでしょう?」

「とぼけたって無駄だよ。これ以上ナルトにちょっかい出したらタダじゃ済まないよ?」

カカシが身に纏う微かな殺気に、シノは思わず震えた。

「ナルトと一緒に修行するのが悪いとでも?」

「ただの修行じゃないでしょ?友情とか、仲間意識の元での行動ならオレだって何も言ったりしないよ。でもさ、お前のはそうじゃないでしょ?お前、ナルトが好きだろ?特別な意味で。」

「だから何だって言うんです?」

シノはカカシの言葉をあっさり認め、その上で問い返す。

「度胸あるね。それとも上忍舐めてんの?」

「オレがナルトを好きでも、あなたには関係無いでしょう?それとも、ナルトを盗られてしまいそうで、恐いんですか?」

瞬間、シノは背後からカカシに拘束された。
左腕を顎の下に入れられ、そのまま右肩を掴まれる。

「このまま背中に風穴開けてやってもいいんだよ?」

カカシがうっすらと微笑むのが解った。
シノがゆっくり下に目を向けると、チリチリと音を立てながら、カカシの右手が青白く光っていた。


シノの頬を一筋、汗が伝う。



「カカシ先生……。」



その場の緊張を一瞬で解く声が響いた。


「な……ナルト!?」

思わず声が裏返る。
カカシは慌ててシノから飛び退いた。

「ひどいってば……カカシ先生……。」

「お前……何で?どうして此処にいるの?」

カカシは引き攣った笑いを浮かべ、ナルトに近寄る。
ナルトは一歩後退る。

「紅先生に聞いたんだってば。」

「あ……あのね、ナルト。これは……その……。」

カカシはナルトを出来るだけ刺激しないように、ゆっくりと歩みを進めるが、同じように、ゆっくりとナルトはカカシから離れて行く。

「心変わりしたんなら、言って欲しかったってば。」

「……え、え?心変わり?」

カカシの足が止まった。
その途端、ナルトの双眸から涙が溢れ出す。

「でも……でもひどいってば……。」

「ナルト、あのさ……何を言ってるの?ね、泣かないで?聞いてよ、ナルト……。」

カカシはナルトの言うことが理解できず、ただオロオロとしているばかりだったが、漸く間合いを詰めて、ナルトの腕を掴んだ。
が、ナルトは力一杯その腕を振り解くと、カカシを見上げた。





「シノを好きになるなんて、ひどいってばよーっ!!」





ナルトはそう叫ぶと、泣き乍ら走り去って行った。



「え………?」



カカシは一瞬動けなかった。
頭が働かない。

ナルトは今、何て言った―――?

数分前の状態を思い返す。
自分達の行動。
体勢。
カカシの取っていたあの体勢は、遠目からなら、まるで後ろからシノを抱き締めているように見えたのではないか?


追い討ちをかけるように、シノがポツリと呟いた。


「あんた……オレを好きだったのか?」


「そんなわけないだろっ!!」

カカシとシノは慌ててナルトの後を追った。






ナルトはカカシの家に着くと大きなリュックを引っ張り出して、自分の荷物を詰め込み出した。
カカシとシノもすぐに追い付き、ドタバタとナルトの居る奥の部屋へ入って来た。

「ナルト!何やってんの!?」

「帰るんだってば!!」

手当たり次第に詰め込むナルトに、カカシは言葉をかけるのが精一杯だった。

「か、帰るって何処へ!?」

「オレの家だってばよ!!」

流石にその言葉を聞くと、カカシはナルトの両肩を掴んで、自分の方を向かせた。

「何言ってんの!!お前の家は先月引き払ったでしょ!?一緒に住む為に。ナルトには帰る所なんて無いんだよ?」

「でも帰るってば!!こんな所に居たくない!!」

ナルトは身を捩ってカカシの腕から逃れると、再びリュックを手にした。

「……ちょっ…!!ちょっとやめなさい!!ナルト!」

カカシがそのリュックを取り上げようと引っ張る。

「やだっ!!離せってば!!オレなんか居ない方がいいってば!?だから出て……っ!」

続けようと思った言葉はカカシに呑み込まれた。

「ん……んんっ……んぅ……。」

有無を言わさず口付けられて、息をするのもままならない程求められる。
ナルトはリュックを手から落とし、必死で抵抗して、カカシの胸を押しやったり、背中に手を回し、拳で叩いたりもしたが、ビクともしなかった。
角度を変え、何度も唇を吸われ、うっすらと開いた唇から熱い舌が入り込んで来て、口腔を犯される。

ちゅく……ちゅ……。

「ん……ん……ふ……。」

ちゅぷ……くちゅん……。

静かな室内に、口付けの音だけが響く。
ナルトの思考回路は麻痺し、自らもカカシを求め、酔いしれる。

「ナルト……。」

口付けの合間の甘い囁き。
カカシがナルトの名を紡ぐ度、ナルトは身体の芯が熱くなって行くのを感じていた。

「あ……ん……せんせ……ん…ん……。」

ちゅ……くちゅ……。

カカシはナルトを長い口付けから解放すると、愉悦の涙を零すナルトを見つめた。

「落ち着いた?ん?」

ナルトにしか聞こえない程の囁きと共に唇を寄せ、ナルトの流す涙を吸い取る。

「せんせ……。」

目を閉じ、されるがままになっているナルトをそっと抱き上げると、ソファに座らせ、自分もその横に座りナルトの肩をそっと抱く。

「さぁ、話して?ナルト……。オレが誰を好きなんだって?」

「ふぇ……。」

カカシの言葉を聞いた途端、ナルトはまた泣き出してしまった。
カカシの胸にしがみ付く。

「せんせ……嫌だってばよぉ……シノを好きになったりしちゃ……やだってばぁ……。」

「バカだね。何言ってんの?そんなことある筈ないでしょ?」

カカシがそっと髪を撫でればナルトは涙に濡れた瞳で見上げて来る。

「ほんと?」

「ほんと。オレが好きなのはナルト。ナルトだってそんなこと解ってる筈でしょ?」

カカシはナルトの頬を人差し指で軽く突付く。
ぷにぷにとした柔らかい感触に思わず笑みが漏れる。

「だって……だって聞いたってば。」

「誰から?何を聞いたの?」

「紅先生が言ってたってば。」

カカシの顔が一瞬引き攣った。

「カカシ先生はシノが好きなんだ―――って。」

やられた―――。
紅の奴、しっかり返してくれた。
いくら誘いを断ったからって、この仕打ちは無いでしょ?

……でもまぁ、今までの行いのツケが一気に回って来たってとこか―――。

カカシは軽く頭を掻いて、ナルトを見下ろした。

「それはね、ナルト。からかわれたんだよ。紅に。」

「からかわれたってば?」

子犬のようなその瞳。
自分を信じ切っているその瞳が堪らない。
カカシは今すぐに押し倒したいと言う衝動に駆られた。

「そう。ナルトがあんまり可愛いから、紅もきっとイジワルしたくなっちゃったんでしょ?」

「どうして?」

事が事だっただけに、今日のナルトは中々引いてくれない。

さて、どうしたもんかね……。
余りにも情けないけれど、事の全貌を明らかにするのが、今回の罰ってとこ……?

「んー……。そうゆうもんなの。大人はね。」

「でも、先生ウソ吐いたってばよ。紅先生と会ってた理由。あれがウソだってことはオレにだってわかるってば。それに、それに今だって……どうしてシノと二人で会っていたんだってば?」

最早言い逃れは出来ないと、カカシは観念して真実を語り始めた。

「ナルトをね、盗られちゃうかと思ったの。」

「とられる?誰に?」

「ん?そこにいるでしょ?」

カカシが目を向けた先には、入り口に立ったまま微動だに出来ずにいるシノの姿があった。

「し……シノ!!居たってば?い、いつから居たんだったば?!」

ナルトは真っ赤になって叫んだ。

カカシとほぼ同時に入って来た自分。
泣きながら走り去って行くナルトが心配で、自分の出る幕ではないと解っていながらも後を追わずいられなかった。
けれどナルトは―――。
自分には気付きもしなかった。
自分を待ってなどいなかった。
ナルトが誰のせいで泣いたのか……。
ナルトが待っていたのは誰なのか……。
ナルトの心を占めているのが誰なのか……。
―――今更ながら思い知らされた。

無言のままのシノ。
ナルトは最初から見られていたのを悟り、恥ずかしくて堪らなくなって、誤魔化すようにカカシに向かって叫んだ。

「だ、大体なんでそこにシノが出て来るんだってばよ!シノは仲間で、友達で、とってもいい奴で……でも、でも、それだけだってば!そんな風に言われたらシノだって迷惑だってばよ!」

落ち込み始めた所に、更にナルト本人から追い討ちをかけられた。
シノは血の気が引くのを感じながら、必死で拳を握り締めていた。
そんなシノの心中を察し、カカシは苦笑すると、ナルトを抱き締めた。

「ごめんね?ナルト。お前とシノがとっても仲いいみたいだったから、先生ヤキモチ妬いちゃった。」

「バカだってば。先生、バカだってばよ。オレ……オレは先生のことだけ……こんなに好きなのに……。」

ナルトはカカシの胸に頬を摺り寄せる。

「うん……。オレもナルトだけだよ?」

「せんせ?紅先生とシノに何を言ったんだってば?」

「ん?え〜と……。」

右手の人差し指でポリポリと頬を掻く。

「先生?」

「……ナルトはオレのだから、手を出さないで……ってね。紅からも言って貰おうと思って…。」

ナルトは項垂れて大きな溜息を吐いた。
すっくと立ち上がるとシノの方へ歩き出す。

「シノ、ごめんってば。迷惑かけて……。」

「いや、別にいい。」

「怒ってないってば?」

「ああ、怒ってなどいない。」

その言葉を聞くと、漸くナルトの顔に赤みが射した。

「そっかぁ、良かった。じゃ、これからも一緒に修行したりしてくれるってば?友達でいてくれるってば?」

「勿論だ。」

「へへ……。」

ナルトは恥ずかしそうに微笑んだ。
その表情に、シノはいたたまれなくなる。

「じゃあ、オレは帰る。」

「うん。またな?」

「ああ。」

外は既に暗くなっていた。
玄関先で見送るナルトを一度だけ振り返り、シノは夜の闇へ消えた。

「ナ〜ルト。」

急に後ろから抱きすくめられ、ナルトは身を捩る。

「な、なんだってば?先生。」

「二人の愛を確かめ合おっか?」

「何言ってんだってば?確かめなくったってそんなの……!わっ!せんせ!」

抵抗する間も無くナルトはひょいとカカシの肩に抱え上げられ、寝室へ強制連行された。
ベッドに寝かされ、カカシが覆い被さって来る。

「先生!ちょっと待ってってば!お、お腹空いたってば!だから後で……後で……って……。」

「ん〜、後で美味しい物た〜くさん作って食べさせてあげるからさ、先にオレにナルトを食べさせてね?もうペコペコでどうにかなっちゃいそうなんだからさ。」

言い乍らカカシの手はナルトの服を脱がしにかかり、きめ細かい真っ白な肌を弄り出す。

「い…いやだってば!や……あっん……やんっ……。」

ナルトの抵抗空しく、寝室からはすぐに甘い嬌声が聞こえ始めた―――。






「シノ。」

翌日、任務の後で紅が声をかけた。

「あんたも運が悪いと言うか……、惚れた相手が悪かったと言うか、そこにくっついてる奴が最悪だったわね。」

シノはちらりと紅を見遣ってから、また前を向いた。

「障害は付き物です。」

「え?」

「簡単に手に入れてしまうよりも、苦労して手に入れた方が喜びも大きいと思いませんか?先生。」

「あんたって子は……。」

紅は苦笑しながらも、今後の展開を楽しみにしている自分に気が付いた。

カカシの受難はまだまだ続きそうである―――。









END






元共同管理人の都築駅さんが222hitを貰ってくれて、リクしてくれました♪
駅さん、有難うvvv
カカシをヤキモキさせるつもりが、何故かナルトを泣かせる羽目に……(苦笑)
シノも紅も思いっきり偽者ですみません!(土下座)
カカシが相変わらずヘタレな上、とっても情けないです。変なカカシでごめんなさい。恩を仇で返すような私をどうか許して……。この落とし前はいつか必ず……。

火野 晶





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