あのさ―――。
オレ、好きな人ができたってば……。
花の咲く音
「じゃ、解散ね。」
カカシの声を合図に本日の任務を無事終了した第7班。
雨が降って来ないのが不思議な程、どんよりとした空の下、サスケはそれでも修行に向かい、サクラはそんな彼に声をかけながら、後を追う。
ナルトは、小さくなって行く二人の背中を見つめたまま、動こうとしなかった。
「ナールト。」
カカシが横から、身を屈めて覗き込むと、ビクッと、肩を震わせる。
「どうしたの?」
ニコッと微笑んで問いかける。けれどナルトの答えは相変わらずで……。
「……別に、なんでもないってばよ?」
困ったような笑顔をカカシに向ける。
「――なんでもない――って顔じゃないでしょ?」
「カカシ先生。任務の報告、行かなくていいの?」
「え……?そりゃ行くけど……あのね、ナルト……。」
――聞かれたことに答えて――と、カカシが続ける前にナルトが遮る。
「それじゃ先生。また明日なー!」
止める間も無く、逃げるようにナルトは駆け出した。
目をすうっと細め、溜息をひとつ吐くと、カカシは身を消した。
今日の任務はとっても早く終わった。
でも、帰りたくないってば……。
ナルトは途中の公園で、ブランコに腰掛けた。
二三度強く漕いでから、そのまま身を委ねる。ブランコが揺れを止めても、背を反らしたまま空を見上げ、ゆっくりと目を閉じる。
誰かに言ってしまえたら、どんなに楽だろう……。
例えばサクラちゃんに……。
例えばイルカ先生に……。
『好きな人ができたってば……。』
言える訳が無い……。
ナルトはそれをよく知っていた。
とにかく相手が悪すぎる。余程の人物でなければつり合うとは思えないし、ましてや自分は男で、子供で、しかも里の嫌われ者。
「わかってるってば。」
ナルトはそう呟くと、笑みを浮かべる。
情けなくて涙が出そうになった。
声をかけられる。
ニッコリと微笑んでくれる。
頭を優しく撫でてくれる。
ふざけながら抱き締めてくれる―――。
そんなことが堪らなく嬉しい。
ずっと側に居たいと思ってしまう。
そして、あの人も自分と同じ想いだったらどんなに幸せだろうと思う。
けれど、上忍で、他国にまでその名を知られている程のその人を、慕っている人が多いことはナルトもよく知っている。
木の葉のくノ一の中にもきっと何人もいるだろう……。
そんな人が自分を相手にする筈もない……。
冷たい水滴がナルトの頬に落ちる。
そしてそれは途端に大粒の雨に変わった。
ナルトはブランコから飛び降りると走り出した。
慌てて空家の軒下に駆け込む。
「ついてないってば……。」
恨めしそうに空を見上げる。垂れ込める厚い雲がこの雨が直ぐには止まないことを教えていた。
春先とは言え、まだ冷たい雨はナルトの心までも冷やして行くようだった。
「何してんの?こんなとこで。」
突然、声と共に現れたカカシにナルトは心臓が跳ね上がる程驚いた。
「カ、カカシ先生……。」
「あーあ、濡れちゃったよ。」
髪や服から水滴を滴らせてカカシは雨を避けてナルトの横に並ぶように立つ。
自分のこの心臓の音が聞こえてしまうのではないかとビクビクしながらも、ナルトはカカシを見つめる。
「先生……帰るとこ?」
不自然にならないように、必死に声にする。
「ん?そうだよ。ナルトはどうしたの?あのまま帰らなかったの?」
「う…うん…。」
名前を呼ばれただけで胸が苦しくなる。
何故この人をこんなに好きになってしまったのだろうと、自分を呪う。
こんなに大きな想いは、きっといつか溢れ出してしまうに違いない。
ナルトはそれを必死で閉じ込める。
すぐに帰らなかった理由を聞きたそうにしているカカシに気付かない振りをして、話題を変える。
「ね、カカシ先生。そのマスクさ、どんな時取るの?」
カカシを見つめ、いたずらっ子そのままの表情でかねてから疑問に思っていたことを口にした。
「これ?」
カカシが口元を指差す。
雨の音、ふたりっきりで雨やどり。まるで外界と遮断されたようで、この世に自分達以外誰も居ないような感覚―――。
ナルトは少しだけ大胆になる。
「いつ取るの?見たいってば。」
「見たい?そうだなぁ……。」
カカシは上を見上げ、考え始める。
「……食べる時と、寝る時と、風呂に入る時と……。家に一人でいる時くらいかなぁ?これ外すのは……。」
ナルトは手を伸ばし、カカシの袖口を掴んだ。
「今は?今見たいってば。」
―――カカシ先生の素顔を見る―――
それはナルトにとって、特に意味のあることだった。
ほんの少しでもカカシに近づきたいと願う、切ない想い…。
カカシは自分を必死に見つめるナルトを、じっと見ていたが、思い出したように言った。
「あ、もうひとつあった。」
「何?どんな時?」
急かすようにカカシの袖口を引く。
カカシはいつものようにニッコリと微笑むと、ナルトの前に立ち、身を屈める。
右手をマスクにかけ……目を見開くナルトにその素顔を晒す。
「あとひとつはね……。」
ナルトの後ろの壁に手をつき、その濡れた前髪をそっと払ってやる。
身を竦ませるナルトの小さな顎に手をかけ、耳元で囁く。
「キスする時―――。」
カカシ先生……。カッコいいってば……。
初めて見る想い人の素顔―――。
ナルトは瞬きも忘れ、見入っていたが、カカシの言葉が反芻されて、慌てる。
カカシ先生、今何て言ったの?―――
カカシの顔が近づいて来る。
ナルトは思わずギュッと目を閉じた。
今にも心臓が飛び出てしまうのでないかと思う程ドキドキして……。それは震えてしまうくらい……。
けれど、息が掛かる程まで近付いたカカシの気配が離れ、ナルトが恐る恐る目を開けた時には、カカシは元通り、いつものようにマスクをして笑った。
「―――なんてね。」
「ひどいってば!カカシ先生っ!」
ナルトはカカシを両手でポカポカ殴る。
「ハハハ、ごめーんね。」
カカシは――降参、降参――と、両手を挙げて見せる。
「許さないってば!」
「はいはい。わかったから…。」
困ったように笑うカカシ。
ナルトは唇を噛み締めた。俯いてカカシを殴り続ける。
良かった……今が夕方で、暗くって……。
良かった……雨が降ってて……。
もし見られちゃっても、雨だって言えばいい……。
「そんなにしたらお前の手が痛くなっちゃうでしょ?」
ふいに聞こえたカカシの真剣な声。ナルトの両腕はカカシに抑えられる。
ハッとしてナルトが見上げると、カカシは空を見つめたまま……。
「ね、ナルト。雨止みそうにないしさ……。」
そう言うと、ナルトを抱き上げた。
「えっ?せんせ……?」
「ちょっと急ぐからね。しっかり掴まってて。」
言い終える前にカカシはナルトを抱きかかえて走り出した。ナルトは慌ててカカシの首にしがみ付く。
―――何処に行くの?―――
そんな事を聞く暇も無く、景色がどんどん変わって行き、カカシの動きが止まった時には一軒の家の玄関先だった。
「せんせー?ここ……どこ?」
「ん?オレの家。」
「えっ!?え…?どうして?」
ナルトを抱えたまま玄関のカギを開け、中に入るとバスルームに直行する。そこで漸くナルトを降ろした。
「先生?あのさあのさ……どうしたの?なんで?」
何がなんだかわからないナルトは、自分で何を言っているのかもよく解っていなかった。
カカシは浴槽に湯を入れる為、蛇口を捻った。シャワーの温度も調節する。
「その濡れた服、早く脱いじゃいなさい。」
「ええっ?お、オレ?」
「そう、ほら早く。」
カカシはナルトの上着のファスナーに手をかける。
「ま…待って先生!オレってば帰る!」
「ダーメ。お前家に帰ったって直ぐにお風呂に入るなんてしないでしょ?きっと……。風邪ひいちゃうよ?」
「で…でも…でも……。」
確かにそうかもしれないが、初めて訪れた(―――と言っても無理矢理連れて来られたのだが…)カカシの家で、いきなり風呂を借りるのはどうかと思った。
「お前が早く入ってくれないと、先生風邪ひいちゃうかも……。」
寒そうに肩を竦める。
「だったら先生、先に入ればいいってば。……って言うか、やっぱりオレ帰る!」
玄関に向かって走り出したナルトの首根っこを掴んで捕まえると、カカシはナルトの服を脱がし始めた。
「わーっ!わーっ!先生っ!」
真っ赤になってジタバタするナルトを抱き締めると、カカシは囁いた。
「なんだったら、一緒に入る?」
ナルトを見つめてニッコリ微笑う。
「ひとりで入るってば!」
漸く観念したナルトが服を脱ぎ始めると、カカシはバスルームから出て行った。
ナルトは熱いシャワーを浴びる。冷え切った身体に心地良い。
ふいにドアの外でカカシの声がした。
「ナルト。着替え、ここに置いとくからね。オレのだけど、いいでしょ?」
「ええっ!?先生の?」
「だってお前の服びしょ濡れだし……。よーく温まってね。」
「先生の服……。」
ナルトは呟くと、身体をごしごしと洗い始めた。
綺麗にしなくっちゃ。先生の服借りるんだから。
念入りに頭も身体も洗ってからバスタブに入る。
「あったかいってば……。」
先生んちのお風呂広い…。これなら本当に二人で入れそう。
先生は一緒にお風呂に入ったって何とも思わないんだろうけど、オレは違うってば……。
さっきだって……。
ナルトは雨やどりしていた時のことを思い出す。あの状況で、もし自分が“ナルト”でなかったら…と思う。
きっと先生は、あのままキスしてた。
オレだから先生はやめたんだ……なのに、オレってば……。
その時の感情を思い起こすと、ナルトは切なさで押し潰されそうになる。
慌ててそれを打ち消すかのように、頭まで湯に浸かった。
「先生、お風呂お先に。ありがと……。」
カカシの気配を辿ってキッチンに入ると私服に着替えたカカシが立っていた。ナルトを見て吹き出す。
カカシの服はナルトには大き過ぎて、余っているというより、殆ど服の役目を果たしていなかった。肩などは今にも落ちそうだ。
「何が可笑しいってば?」
ナルトがふくれると、カカシは微笑んで手に持っていたマグカップを差し出した。
「これ飲んで。」
中身はホットミルク。ナルトはそれを一口飲むと、幸せそうに笑った。
「よく温まった?髪……ちゃんと乾かしたの?」
カカシはナルトの髪と、頬に触れると、ニッコリ微笑む。
「ごーかっくv」
隣のリビングで適当に座っているように言うと、カカシはバスルームに向かった。
部屋はほどよく暖められていて、心地良い。
ナルトはソファに腰掛ける。
カカシ先生の家……。
きっとサクラちゃんや、サスケも来た事ないんだろうな……。
そう思うと、ナルトはとても嬉しくなった。
けれど、すぐにそんな気分は打ち消された。
この家、どんな人達が来るんだろう……?
忍の仲間は勿論、きっと綺麗な女の人が何人も来てるんだろうな……。
このソファに腰掛けて……そして先生はその人に……。
その人に、オレにはしなかったキスをしたりするんだ……。
きっと今だってそんな人が居る筈……。
この場所で、先生とその人は……。
ナルトはマグカップをテーブルに置くと立ち上がった。
自分の服を探す。だが、何処にも見当たらない。
そう言えば先刻から音がしている。
この音は……。
ナルトは音の主を探した。
……洗濯機。呆然とそれを見つめる。
「まさか…先生…。」
「何?」
「うわっ!」
いきなり背後で声がして、驚いて振り返ると、タオルで髪を拭いているカカシが立っていた。
「せ…先生…オレの服…は?」
「ナルトの服?その中。」
カカシは洗濯機を指差す。
「だって洗った時と同じくらいに濡れてたしさ、そのまま乾かすよりどうせなら洗っちゃった方がいいでしょ?」
カカシの言葉にナルトはがっくりと肩を落とした。
もう此処には居たくない……。なのに……。
「お腹空いたねー。」
カカシはナルトの気持ちなどおかまいなしで、脳天気にキッチンへ向かう。
後をついて来たナルトを振り返ると、とんでもない事を口にする。
「ナルト、今日はさ、もう泊まってっちゃえば?」
「は?」
ナルトは耳を疑った。
カカシは飄々と続ける。
「洗濯したってさ、すぐには乾かないし、その服じゃ大き過ぎて外歩けないでしょ?もう夜になるし、お風呂も入っちゃったしさー。夕飯も二人分で作り始めちゃったし……。ね?決まり。」
微笑みながら、有無を言わさぬ口調で自分の計画を発表するカカシ。
「じょ…冗談じゃないってば!!オレ帰るから!先生、この服と傘貸してっ!あ、悪いけどオレの服、明日任務の帰りにでも寄ってもらってくから、それまで預かってて。」
慌てて玄関へ向かい靴を履こうとしたナルト。だが、カカシに抱き上げられ、それを止められる。
「先生っ?!」
「何で逃げるの?」
「逃げてなんかいないってば!先生っ!降ろして!」
カカシはナルトを抱えたままリビングに入ると、ソファにナルトを降ろし、その横に腰掛けた。
不満そうに見つめるナルトに、すうっと目を細める。
「ナルト、最近変だよね?」
「へ…変って何…?」
「しょっ中溜息吐いてるしさ、サクラやサスケをじっと見て哀しそうな顔したりさ……。」
「そ…そんなの…先生の勘違いだってば。」
ナルトはカカシから目を逸らす。
「オレのこともさ……目を合わせない様にしたり、話し掛けても逃げちゃうしさ。触れれば振り払ったりするでしょ?」
「そ…それは…。」
流石上忍だと思う。自分の気持ちなど、とうに気付かれているのではないかと、ナルトは手が冷たくなるのを感じた。
カカシは溜息をひとつつくと、ソファに寄り掛かる。
「最初は―――オレのこと意識してくれてるんだなぁ―――って思ってたんだけど……どうも最近違う気がして……ねぇ、ナルト。もしかしてオレのこと、嫌い?」
「嫌いじゃないってば!」
ナルトを見つめるカカシに向かって思わず叫んでしまい、慌てて口を押さえる。
「ほんと?」
俯いたナルトをカカシは覗き込む。
「ほんとだってば……。」
小さな声で答える。
「じゃあさ、やっぱりオレが怖いんだ…?」
「え……?」
何故そんなことを言うんだろうと、ナルトはカカシを見つめた。
「んー…。」
カカシは困った様子で頭に手をやる。
「ま!先刻も驚かせちゃったし……ねー?」
「さっき……って?」
「雨やどりの時。」
軽くウィンクしてみせる。
「あ…あれは…。」
ナルトは口篭る。
カカシを怖いわけが無い……そうではないのだ。
けれど本当の理由を言うことなど出来る筈もなく、ナルトは不自然でない言い訳を考える。
「先生がふざけてあんな事するから、びっくりして……だから……。」
「泣いちゃったの?」
確信を突かれてナルトは目を見開く。カカシの目は『あれは雨だなどと言わせない』と言っているように見えた。
「びっくりして?違うでしょ?」
尚もナルトを追い詰める。
「だ……って、だって……。」
そうではない…カカシが怖いわけではない。違うのだと…ナルトは心の中で叫ぶ。
「ごめんね。ナルトが嫌がるようなことはしないようにするから。だからオレを避けたりしないで?」
ナルトは俯いたまま、動く事が出来ない。
「オレはナルトが好きだから。ナルトに嫌われちゃったら哀しいよ?」
ナルトは弾かれたように顔を上げると首を振った。
「違う……オレ…オレ…。」
涙が溢れて来る。
「ナルト…泣かないで。責めてるんじゃないから…。」
カカシはそっとナルトの涙を拭う。
「オレもカカシ先生のこと…好きだってば……。」
もうこれ以上誤解されたままなのは耐えられなかった。嫌いになどなる訳がない。避けたりしたい訳がない。
意を決して言葉にしたナルトを見つめ、カカシは苦笑する。そして―ありがとう―と言って、ナルトの髪を撫でた。
「そうじゃない!そうじゃなくって……。」
ナルトは激しく首を振って、そして俯いた。
「先生がふざけて…キスするふりをした時……オレ…オレ、嫌じゃなかった…。」
カカシが息を呑んだのがわかった。けれどもう止めることが出来ない。
必死に隠して来た想いが口をついて出て来る。
「……だから、先生が―――ふざけてた―――ってわかった時、オレ…悲しくなっちゃったんだってば……。」
「ちょ、ちょっと待って、ナルト。」
やっぱり…先生慌ててる。当たり前だよ。オレ、男だもん。
そんな風に想われたら気持ち悪いだろうし……。
「じゃあナルトは、オレがキスしようとしたからびっくりして怒って泣いたんじゃなくって……。」
……ましてや化け狐を飼ってる奴だなんて、先生だって背筋寒くなるよね……?
「ナルトは…オレが…キスしなかったから、悲しくて泣いたの?」
確認、されちゃったってば……。
「そうなの?」
カカシが念を押すと、ナルトは静かに頷いた。
「なんだー。」
カカシは大げさに息を吐くと、身体を折った。そのままナルトを見上げ、問い掛ける。
「じゃあ、最近ナルトが変だったのは…?」
「オレは男だから……先生を好きになったら変だってば。でも、サクラちゃんは女だからサスケを好きになって当たり前で、サクラちゃんやサスケがとっても遠く感じて……。先生を見てると……とっても苦しくなって、先生の側には居られなくなるってば……。」
「だから今日も帰ろうとしたの?」
ナルトはゆっくりと首を振る。
「此処には…どんな人が来たんだろう…って、綺麗な人かな…って。先生はその人とキスしたりするんだろうな…って思ったら、帰りたくなったってば……。」
「バカだね。お前は…。」
カカシはナルトをそっと抱き締めた。
「でも、ゴメン…ナルト。そんな風に想ってくれてたなんて…気付かなかった。」
先生…あったかいってば…。
ナルトは目を閉じる。
カカシに想いを伝えることが出来た。あからさまな拒絶の言葉はない。もう、これでいいと思う。これで、充分報われたと思う―――。
そんなナルトをカカシは更にきつく抱き締める。
「お前にキスしなかったのはね。お前が震えてたから…。怖がらせてるって思ったんだよ?本当はね……すごくキスしたかった。」
身体を離し、ナルトを真っ直ぐ見つめる。
「先生?」
きょとんとしているナルトに、カカシは告げる。
「好きだよ。ナルト。」
「せん……せ?」
「もう遠慮したりしないから。」
そう言うと、カカシはナルトの肩を押さえ、ゆっくりと顔を近付けた。
ナルトは何が起こっているのか解らず、そのままカカシの唇を受け止めた。一瞬遅れ、慌てて目を閉じる。
カカシ先生と…キスしてるってば。
カカシ先生がオレを好きって言ってくれて…そんで、キスしてくれた。
触れるだけのキスを落として、名残惜しそうにカカシはナルトの唇を離した。
「これで今日からナルトはオレの恋人ね?」
「こ…コイビト?」
「だってキスしちゃったし。」
「キ…スしたら…コイビト?」
「そうでしょ?」
そうだったかな……?と、ナルトは思うが、カカシが余りにも不思議そうにナルトを見るので、そうだったのか……と、納得してしまう。カカシの思うまま……。
「他にも…居る?」
「何?誰が?」
余りにも唐突なナルトの言葉。カカシは首を傾げる。
「カカシ先生、他にも恋人…居るの?」
「居ないよ。ナルトだけ。ナルトだけ好きだよ?」
「でもオレ男だし…。」
「オレも男だけど、ナルトが好きだよ?」
「九尾…だし。」
「ナルトはナルト。そんなの関係ないでしょ?」
「オレで……いいの?」
「ナルトでいい―――じゃなくてね。ナルトがいいの。ナルトでなきゃダメなんだよ?」
「ほんとに?」
何度でも確認したくなる。夢のようなカカシの言葉。他の誰でもなく、ナルトが恋焦がれるその人からの……。
「ほんと。だから、ね?ナルト。恋人になって?」
カカシはナルトの不安を取り除くように、にっこりと微笑む。
「なるってば。」
ナルトは極上の笑顔でカカシに抱きついた。
「カカシ先生、大好き。」
「オレも大好きだよ。ナルト。」
抱き締める腕に愛しさを込めて…。
好きな人に―――好き―――と言える幸せ……。
ねぇ……大好きだってば―――。
翌日、サスケとサクラは顔を引き攣らせる事となった。
遅刻ばかりしていたカカシが、今日は定時に現れた。
それはいいのだが、何故かカカシはナルトと一緒に仲良く現れ、こともあろうにナルトの肩を抱きながら、任務の説明を始めたのだ……。
「カカシ先生、離してってば。」
「ダーメ。」
ナルトはカカシの手をどかそうとするが、逆に後ろからすっぽりと抱き込まれてしまう。
「恥ずかしいってばよ。」
真っ赤になって身を捩じらせるが、そんなことはおかまいなしで……。
「オレ達、恋人同士でしょ?恥ずかしくなんかないよ?」
「恋人ーーーっ!?」
サスケとサクラがハモった。
「でも先生。昨夜も一晩中離してくれなかったし……。」
ナルトが口を尖らせる。
サスケとサクラは顎を落とした。
「んー?ナルト抱き心地いいからさー。」
「でも寝苦しいからもう少し手を緩めて欲しいってばよ。」
「わかったよー、ナルト。」
語尾にハートマークが見える。デレーッと、目尻を下げる上忍、はたけカカシ。
―――この腐れ上忍……コロス―――
イチャパラな世界を繰り広げる二人を見ながら、サスケは拳を震わせるのだった―――。
END
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