|
振り向けばヤツがいる
形のないものを信じることはとても不安で勇気のいることだと、カカシ先生と思いが通じた後、初めて思った。
カカシ先生はいつもと変わらない態度で俺に接してくれる。
俺だって外ではあまり抱きついたりしないよう気をつけている。
サクラちゃんから「あんた達、本当にラブラブなの?」と聞かれたけど、任務中にイチャイチャするわけにいかないってばよ。
先生の読んでる本じゃないんだからさ。
任務が終わり、修行している間にカカシは報告へ行く。
その後、修行場まで戻ってきたカカシと家に帰る。
そんな毎日の繰り返しに、ナルトは慣れつつあった。
しかし、そんな平凡な毎日に波風が立つ日がやってきた。
いつもと違うその日。
カカシは火影に呼ばれ、遅くなると言っていた。
「先生、上忍だから大変だってばよ・・・」
下忍の自分とはランクが全然違うだろうカカシの任務は、ナルトには想像つかない。
忙しい中、出来るだけ一緒にいようとしてくれているカカシに感謝の気持ちさえ抱いている。
修行を終え、帰宅の途につこうとしていた時だった。
「カカシさんって・・・」
女性の声がした。
思わずナルトは足を止める。
そこには忍の男性と女性が話をしていた。
「あの金髪の子と付き合ってるって本当なの?」
「あぁ、俺も聞いた話だけどな」
「やだ!私、狙ってたのにぃ。でもガセっぽいわよね。あのカカシさんが・・・、しかも、男の子とだなんて」
「そうだなぁ。きっと群がる女を牽制するためとか。そっちの方が真実味あるよな」
ふたりが笑っているの聞いて、ナルトは頭から血の気が引くのを感じた。
ど、どうして・・・。
ナルトは眩暈さえするほど頭の中がグルグルしている。
自分達が恋人同士に見えないというのが問題ではない。
そんなことはナルトにとって当たり前だと認識しているからだ。
動揺する気持ちを抑え、気配を消してその場を後にした。
「・・・んで、何であの人達が知ってるんだってば?」
ハアハアと息をつく。
家に帰るつもりだったのに、あまりに動揺しすぎて修行場へ戻ってきてしまった。
見たことも会ったこともない人が自分とカカシのことを知っている。
いや、聞いた話だと言っていた・・・と言うことは、他にも色々な人が知っているということ。
「噂になってるってばよ・・・、俺達」
どうしよう。どうしよう。
カカシ先生と俺のこと、バレたらヤバいって。
このまま家に帰ることは出来ない。
カカシ先生は遅くなると言っていたけど、もし家に来られたら普通の顔なんて出来ねぇってばよ。
うろたえて何を口走るかわからなかった。
「イ・・・イルカ先生」
こんな時、イルカ先生ならきっと相談にのってくれる。
いつものナルトなら、どんなことでもカカシに相談していたはずだったが、今回はばかりはイルカを頼った。
一目散に走り、ナルトはイルカの家の前に到着した。
「イルカ先生・・・いる?」
控えめにトントンと扉を叩く。
しかし、中からの返事はない。
もしかして・・・まだアカデミーだってば?
ここで待っていた方がいいような気もしたが、早く逢いたいと今度はアカデミーへと向かうことにする。
ナルトはアカデミーの入り口で数人の中忍と話をしているイルカを発見した。
「あ!イルカ先生!!」
「・・・ん?」
振り返ったイルカにタックルをかます。
「助けて、イルカ先生!」
「ぐあっ!!ナ、ナルト・・・ぉ?」
ナルトの頭部がちょうど腹部にぶち当たり、イルカは見事にひっくり返った。
「大変なんだってば!俺、どうしていいかわからなくて・・・っ」
半分涙目で自分を見上げてくるナルト。
「何だ、どうしたナルト?」
かじり付くナルトの手を緩め、イルカはどうにか一息ついた。
一楽へ行こうと誘った時もこうして抱きついてくるナルトだったが、今回ばかりは勝手が違い、イルカは困惑を隠せない。
「俺、俺・・・っ」
「落ち着け。ここじゃ何だから、あっちへ行って話そう」
優しく背中を撫で、アカデミーの庭に立っている大きな木のところまでナルトを連れて行った。
はあっと息を吐いたナルトに「落ち着いたか?」と声をかける。
「うん・・・。あのさ、イルカ先生、俺とカカシ先生のことなんだけど・・・」
「うん?ああ、付き合ってるって話か?」
「!」
ナルトがヒクッと息を呑む。
「知ってるぞ。って言うか、おそらく、ほとんどのヤツが知ってると思う」
「知っている」というイルカの声がリフレインされて、続きの言葉など頭に入ってこない。
「おい、聞いてるのか、ナルト?」
「・・・え?」
「だから、本当かどうかなんて知ってるやつは極一部だが、噂にはなってるな。ま、人の噂は75日って・・・おい、ナルト!?」
ナルトの目からポロポロと涙が溢れているの見て、イルカは目を丸くする。
な、何を泣いてるんだ?
イルカの頭には?マークが飛び交う。
カカシから事実を突きつけられた時も同じように絶句したものだが、この場合、何故ナルトが泣くのかよくわからなかった。
「何か嫌なこと言われたのか?」
そんなことくらいでナルトが泣くはずがないとわかっていた。
ナルトは人から何を言われようと、泣いたことがなかった。
少なくともイルカの前では。
「イルカ先生ぇ・・・、俺、俺、先生とベタベタとかしたことねぇし、任務の時だって普通だし、誰にも言ったことねぇのに何でみんな知ってるんだってば?」
ようやくナルトの困惑を知ったイルカは、困ったように鼻の頭を掻いた。
「あ〜、それはなぁ、カカシさんが・・・」
隠そうとしていない・・・と言うよりも、自分から言って回っているのだとナルトに言ってもいいものかどうか・・・。
実際、イルカのところにもカカシが報告へやってきた。
いや、報告と言うよりあれは脅しだった。
イルカのところへカカシがやってきたのは1週間ほど前のことだった。
「こんにちは。イルカ先生」
「・・・カカシさん」
報告書を手に廊下ですれ違ったカカシは会釈ではなく、直接声をかけてきた。
「ナルトのことなんですけど・・・」
何だろう?と思う間もなく、カカシはイルカへ爆弾発言を撃ち込んだ。
「はい、ナルトが何か・・・?」
「俺と付き合うことになりましたから」
語尾にハートマークが見えた・・・ようか気がした。
「へ?」
「だから、今後は気安くナルトに触るのは止めて下さいね」
ニコリと笑ったカカシに返す言葉がなかったのは、驚きのあまり頭が真っ白になったからだけではない。
とても口を挟めるような雰囲気ではなかったのも事実で・・・。
目が笑ってなかったもんなぁ、カカシさん。
ナルトの背中に手を回して慰めつつ、ぼんやりとあの日のことを思い出していた。
余程、俺がナルトに触ることを快く思っていなかったのだろう。
腹に据えかねる・・・そういう心境だったのだろうなと今なら冷静に思えるのだが。
そこまで考えてふとナルトの背中を撫でていた手を止める。
ちょ、ちょっと待てよ。
今のこの状況はとてつもなくマズいのでは?
ナルトはグスグスと泣きながらイルカの胸に埋め、木に凭れたままの状態でナルトの背を撫でている自分。
ヤ、ヤバイ。これは非常にヤバイ。
周囲には誰もいないのことを慌ててイルカは確かめる。
「ナルト、とにかく、俺の家へ行こうか。ここじゃちょっとマズいような・・・」
「イルカ先生?」
ナルトが顔を上げた瞬間、イルカはぞくりと背筋を震わせた。
ナルトの顔に・・・ではなく、自分の背にしている大きな木の真後ろに一番会いたくない人物がいるとわかったからだ。
よく知っている気配、そして殺気。
遅かったか・・・。
判断が遅かったとイルカは心から嘆いた。
「どこに行くんですか、イルカ先生?」
「もう一度言ってください」と実に柔らかい声音とにこやかな顔で木の後ろからカカシが顔を出した。
「「カカシ先生」」
ナルトは心底驚いた様子で、そしてイルカは半分諦めの境地でその名を呼んだ。
まだ死にたくないんだけどな・・・。
イルカは深いため息を吐いた。
To Be Continued
ウィンドウを閉じて下さい |
|
|