振り向けばヤツがいる 2

 カカシはイルカに抱かれているナルトを見つけた。
 ピキッと頬が引き攣る。
 何やってんのかねぇ・・・。こんな場所で、しかもふたりっきりで。
 頭の芯が冷えていく。
 奥歯を噛み締めて、音もなくふたりに近づき、大きな木の下までやってきた。
 あぁ、このまま目の前の邪魔者を消してしまいたいよ、全く。
 いつも以上に凶暴な考えが頭を過ぎった。

 ホンの十数分前まではカカシの心は穏やかだった。
 ナルトに今日は遅くなると告げていたが、用件をさっさと終わらせたカカシは、周囲が引き止める間もなくその場を後にした。
 ナルト、きっと待ってるよなぁ。
 約束はしていなくても、きっとナルトは待っていてくれるとカカシは信じていた。
 やっぱり、一緒に住んだ方がいいよね、絶対。
 そうすれば、周囲の人間がナルトにちょっかいを出すこともなく、大っぴらにカカシのモノだと宣言できる。
 優しさに免疫がないナルトは、人から親切にされると戸惑いながらも無条件に「この人はいい人だ」と認識してしまうところがある。
 幼い頃から冷たい目で見られ、傷つけられてきたにも関わらず、ナルトは恐ろしいほど無防備で無垢だった。
 それはナルトの美徳のひとつと言えるのだが、カカシからすれば他人に簡単に心を許して欲しくなかった。
 ナルトは騒がしく、敬遠されることも多い。
 しかし、実は懐が深くて、こちらが守っているつもりでも、ナルトに包まれて癒されているのに気づく時がある。
 眩しい笑顔も真っ直ぐな心も全てを自分のモノにしたいと思うのは、おそらく自分だけはないだろう。
 少しでもナルトの良さに気づいた者ならば、誰しも抱く思いに違いないとカカシは思う。
 だからこそ、ナルトと付き合うようになって、それとなく牽制、忠告をしていた。
 ナルトがいない時は「ナルトは自分の者だ」と主張し、ナルトがいる時はさりげなく後ろで睨みを利かせていた。
 ナルトにわからないように念には念を入れていたが、それでも納得する者は少ないとカカシは認識している。
 一番の問題はナルトから相手に懐いていくということだった。
 そしてこれまた一番厄介なのは、うみのイルカ。
 恋愛感情はないとわかっていても、ナルトが飛びついていく姿を見るのは我慢ならなかった。
 こんな独占欲が自分にあったなんて自分自身が信じられないよ。
 垂れた首をヤレヤレと軽く振る。
「でも、背に腹は変えられないんだよねぇ」
 さぁて、ナルトは今頃何をしているのだろう。
 お風呂かな?それとも、寝る準備をしているころかな?
 突然訪問した時のナルトの驚き、そして喜ぶ顔を思わず想像する。
 やっぱり、行っとくか。
 「カカシ先生!」とあの声が脳裏に鮮やかに甦る。
 ウキウキした気分でナルトの家に向かう・・・はずだった。
 アカデミーの前を通りがかった時、身に覚えのある気配がふたつ。
 どちらも良く知っている。
 何で?こんな時間にこんな場所で・・・。
 まるで、密会しているように寄り添っているのが見えた。

 イルカのすぐ後ろに立った時、イルカの声が聞こえた。
「ナルト、とにかく、俺の家へ行こうか。ここじゃちょっとマズいような・・・」
 吐き気がするほど優しい声。
 カカシはぎゅっと両手を握り締めたまま、出来るだけ冷静に声を発した。
「どこに行くんですか、イルカ先生?もう一度言ってください」
 ビクリとナルトの身体が揺れる。
 どうしたの、ナルト?何をそんなに動揺してるの?
「「カカシ先生」」
 ふたりの声が重なる。
 そのことがカカシを更に不機嫌にさせた。
 声をかける前に気づいてたのか、イルカは少し諦めたように。
 ナルトは心底驚いたように。
 何そんなに驚いてんの、お前?
 鬼の居ぬ間にってやつじゃないよね?
 いくらお前でもそれは許せないよ。
 あぁ、くそっ、ムカツクね。
「何の話しをしてるの、ナルト?秘密の話?」
「カカシせんせ・・・」
 引き攣ったナルトの顔と少し震える声。
 さあ、早く白状した方がいいよ。
 俺がキレないうちにさ。 
「俺に言えない話なの?」
 泣いていたのだろう、潤んだ目でこちらを見上げているナルト。
 抱いて慰めてやりたい気持ちともっと泣かせてみたい気持ちがカカシの中で葛藤を始める。
 でも、ま、その前に早くこの中忍から取り返さないとね。
 固まったままイルカの腕の中にいるナルト。
 その腕を掴んで、いつものカカシからは考えられないほど乱暴にイルカから引き剥がす。
「わっ・・・、いたっ」
「ナルト!」
 驚くイルカにカカシは冷めた目を向ける。
「返して貰います。これは俺のだって言いましたよね?」
「・・・っ」
 イルカが息を呑む。
「カカシ先生?」
 横にいるナルトが驚いた目でカカシを見つめているのに気づいた。
「なぁに?」
「あのさ、あのさ。イルカ先生に言ったの?その・・・俺たちとのこと」
 戸惑いながら言葉を口にするナルトにカカシは首を傾げる。
 何でそんなこと聞くの?
 当たり前でしょ、一番の要注意人物なんだから。
 ナルトのこの反応はもしかして・・・。
「ナルト。もしかして、言って欲しくなかったの?」
「・・・えっと、俺・・・」
 それは・・・その反応はイルカ先生には知られたくなかったってこと?
 カカシはナルトを凝視し、返事を待つ。
 しかし、ナルトは今にも泣きそうで必死に堪えている。
 ふたりの沈黙を破るようにイルカが割って入った。
「ちゃんとあなたがナルトに話していないから悪いんですよ!こいつは、あなたと自分が噂になってることを知って、どれだけショックだったか・・・。あなたにはわかりますか?」
「噂って・・・」
 そっか、ナルトは俺と噂になってることを知って・・・。
「え、でも、ショックってどういうこと?」
 ナルトに尋ねたが返事はまたしてもイルカから。
「普通、ビックリするでしょう。自分が言いふらすでもなければ、逆にバレないように気を使っていたのに知られたとなると」
 イルカはそこで一旦、口をつぐむ。
「どこでバレたのか・・・、自分がカカシ先生ばっかり見てるから・・・気づかれたのかと思ったってば」
 ナルトがカカシの服の裾を掴んで見上げていた。
「まさかカカシ先生とあろう人が俺なんかと付き合ってるなんて信じられないって、普通なら思うはずだし。実際、この耳で聞いて、ガセネタだろうって。でも、そんなこといいんだってば。人が俺のコトどう思おうと。でも・・・俺、俺、カカシ先生の評判まで落としてるんじゃないかって悲しくて・・・」
 ウルッとナルトの瞳が揺れる。
 ナルトは心底カカシを心配していた。
「ナルト!」
 お前、何て可愛いの!
 あぁ、この場で即行食っちまいたいっ。
 ひしっと抱きしめたカカシは、ナルトが苦しいと背中を叩くまで離さなかった。

「ナルト」
 イルカが柔らかな声でナルトを呼んだ。
「イルカ先生、色々ごめん」
「いいよ、別に。じゃ、俺じゃなくカカシさんに慰めてもらえ。ただ、ひとつだけ言っておくことがある・・・」
「何?」
 ため息と共にイルカから吐き出された言葉。
「確かにカカシさんは忍びとしては優秀だし、この里で最高の人物だと思う。だからと言って、人間として最高かと言うとそうでもない。もっと自分に自信を持て。俺は、お前の恋人の趣味が悪いと噂されてる方が心配だ」
「それ、どういう意味?」
 イルカの言葉にカカシが眉間に皺を寄せて詰め寄ろうとする。
「言葉通りです。人に脅しをかける前に、ナルトと信頼を深める方が先でしょう。それでは、私はこれで。じゃな、ナルト」
 イルカは何事もなかったかのように歩いてその場を去っていった。
 カカシとナルトの間で沈黙が支配する。
「あのさ、カカシ先生」
 沈黙を破ったのはナルト。
「何で俺とのこと言ったの?」
「ん〜?それは・・・牽制しとかないとねぇ。誰が懸想するかわかんないでしょ」
 カカシの言葉にナルトは苦笑いを浮かべた。
「俺に限ってそれはないってばよ。カカシ先生の方が色々な人から好かれてて・・・」
「ナルト」
 ナルトの言葉はすぐにカカシに遮られる。
「誰が俺を好きでいようと、俺はナルトが好きなんだから関係ないよ。関心のない者のことを気にしても仕方がないしね」
 だから何があっても、俺だけを信じて。
 イルカに相談などせずに俺のところに一番に来て。
 何度も「ナルトが好きだ」と囁けば、ナルトはウンウンと頷いた。

「じゃ、帰ろっか」
「うん」
 カカシと手を繋ぎ、一歩足を踏み出したと思ったら、カカシはいきなり立ち止まる。
 ナルトが不思議そうに見上げると、ボーっと空を見つめているカカシがいた。
「先生?」
「あ、そうそう。誰が陰口叩いてたか後で教えてくれる?」
「?」
「ちゃんと注意しとかないとね」
 にっこりと笑ったカカシ。
「覚えてないってば・・・よ」
 顔なんて本当に覚えてない。
 それに、笑ってるけど、でも先生・・・本当に笑ってる?
 こういう時のカカシは色々な意味で怖かった。
「じゃあ、思い出すまでイイ事する?」
 やっぱり、そう来たか!
「明日は任務があるし・・・ね、先生。今日はちょっと・・・」
 手を繋いだまま後ずさりするが、あっさりとカカシの腕の中に囚われる。
「ナルト、俺のこと、すご〜く好きなんだよね。先生、ホント嬉しいなぁ」
「せんせー、俺の話、聞いてる?ねぇ、聞いてる?」
 腕の中から抱っこの状態に移行され、必死に逃れようとするナルトだったが、カカシには通用するはずもない。
 道で行き交う人々が不思議そうにふたりを見ている。
 カカシはそんな視線を気にすることなく、上機嫌で駄目押しの一言をナルトに突きつける。
「ナルト、いっそこのまま、恋人宣言ってことで・・・ここ(道端)でヤる?」
 その言葉にナルトはつい先程までカカシの立場を思い、悩み泣いたことを思いっきり後悔した。
 でも、カカシせんせー、大好きっ。
 いつも後ろで見守ってくれているカカシの腕の中、ナルトは思いっきりカカシを抱きしめた。


                           〜Fin〜






美雪様より頂きました♪
なんて健気でいじらしいナルトなんでしょうv可愛い〜〜〜っvvv
ナルトに頼られて嬉しい反面、カカシ先生を恐れるイルカ先生がとってもツボでした。
そして、「ナルト一筋」で嫉妬の炎を燃やすカカシ先生、とっても素敵です〜♪
美雪様、素敵なお話を有難うございましたvvv




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