あなたに伝えたい事がある……。

それが許されるのであれば……。





告白





カカシ先生はいつもオレを子供扱いする。

「ナルト、お前ちゃんと食べてんの?」

ほら、また。

「そんなんじゃ大きくなれないよ?」

「大きなお世話だってばよ。」

ナルト達第7班は本日の任務を終え、帰る途中だった。
木ノ葉の里の商店街は、バレンタインデーが間近に迫っている為、其処彼処にハートが溢れている。ハートをふんだんに使ったディスプレイが、否応無しに、目を引く。
それを横目でちらちらと見ているナルトの頭に手を乗せ、カカシはのんびりとした口調で続けた。

「何でもバランス良く食べないとダメだぞ?器がちゃんとしてないと、精神にだって影響があるんだからね。」

「誰にだって好き嫌いくらいあるってば?」

ナルトはそっぽを向いて、唇を尖らせる。

「お前のは好き嫌いじゃなくって、偏食って言うの。ラーメンばっかり食べて……。だからこんなに『ちんちくりん』なんだよ。」

カカシはそう言いながら、ナルトの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「うるさいってば!」

振り向いてカカシに食って掛かったナルトを見て、サクラが口を挟んだ。

「ちょっとナルト。あんた、カカシ先生に向かって何言ってんの?先生、心配してくれてるんでしょ?」

ナルトは頬を膨らませて、俯いた。

「違うってばよ、サクラちゃん。先生は、カカシ先生はオレを子供扱いしてるだけだってば。」

「子供だろうが。」

すかさずサスケが突っ込みを入れる。

「お前に言われたくないってばよ!」

ナルトが叫ぶと、カカシはふうっと、溜息を吐いた。

「……じゃあナルトは、オレにどんな扱いをして欲しいの?」

「え……?」

「まぁ、もっとも、そんなへ理屈捏ねてるようじゃダメだけどね?」

カカシが苦笑すると、ナルトはぷいっと横を向いて、唇を噛み締めた。









「カカシ先生、明日の夜、遊びに行ってもいい?」

数日後、ナルトは任務の後で、報告書を提出に向かおうとしていたカカシを呼び止めた。

「遊びに?」

「うん……、に、忍術書でわからない所があるから教えて欲しいし……。オレ一人で行ったら……ダメ?」

カカシの家には何度か行ったことがある。
但し、今まではサスケとサクラも一緒だった。
ナルトは手に汗を握りながら、カカシの答えを待った。


「いいよ?今の所、任務は入っていないから。」


身体の力が一気に抜ける気がした。
まずは第一段階クリアと言った所だった。

明日は2月13日。バレンタインデーの前日だった。
ナルトはこの日、練りに練った計画を立てていた。
それを実現させる為、明日の夜はどうしてもカカシの家に行かなくてはならない。

「じゃ、明日、任務が終わったら先生ん家に行ってもいい?」

「いいよ。おいで。」

カカシの答えを聞いて、ナルトは満面の笑みを浮かべた。












「ナールト、もう帰りなさい?」

計画実行のその日、ナルトは予定通り任務の後、カカシの家を訪れ夕飯をご馳走になり、その後、忍術書や巻物を見ながら、カカシに色々と教わっていた。
10時を過ぎて、カカシがナルトに声をかけた。
ナルトは時計をちらりと見て、すぐにまた本に目をやる。

「え?あ、うん……もうちょっと……。ね、先生、これは?これならオレにも出来るってば?」

「はい、もうおしまい。」

ナルトが見ていた本を取り上げ、カカシは横へ置いてしまった。

「良い子が寝る時間はとっくに過ぎてるからね。家に帰って寝なさい。」

「大丈夫だってば。オレ、夜は大丈夫。まだ眠くないってば。」

ナルトが焦ってその本をまた開こうとすると、カカシは立ち上がった。

「ダーメ。明日も任務でしょ?お前も、それからオレもね?」

ナルトはハッとしてカカシを見上げた。

そうだってば。
オレは良くても、カカシ先生にとっては迷惑なことだってば。
上忍としての任務もあって疲れてるんだから、早く休みたいだろうし……。



「わかったってば。」

ナルトはそう言うと、項垂れてリュックを背負った。
玄関に向かって歩き出す。

「ナルト、忘れ物。大事な本を忘れてどうするの?はい、入れてあげるから。」

カカシはそう言って、ナルトのリュックを開けようとした。
ナルトはハッとして、身体を捩った。

「い、いいってば!自分で入れる!」

カカシの手から本を取ろうと手を伸ばす。

「何?どうしたの?」

それをひょいとかわして、カカシは本を高く掲げる。

「返してってば!自分で入れるからいいってば!!」

「なんで?」

「え?な、何が?」

ひきつった笑いを浮かべるナルトの背から、カカシが素早くリュックを奪う。

「わーっ!!返してってば!!」

ナルトはぴょんぴょんと飛び跳ねて、カカシからリュックを取り返そうとするが、全く歯が立たない。

「なーに?この中、見られたくないの?」

「そんな事無いってば!何も入ってないってばよ!見ちゃダメ!!」

「ほら、やっぱり何か入ってるんでしょ?見ちゃダメって言われると余計に見たくなるんだよね。」

カカシはリュックの中を覗いて、手を入れた。

「やだってば!!カカシ先生!見ないで!!」

カカシにぶら下がるようにしかならないナルトは、泣きそうになりながら、叫んだ。

「ナルト、これ……。」

カカシが取り出したモノは、綺麗にラッピングされた箱だった。

「ダメって……言ったってば……。」

ナルトは床に座り込んでしまった。

「もしかして……。」

「まだ12時になってないのに……14日じゃないといけないのに……。」

カカシが手に持ったその包みからは、ほんのりと甘い香りがしている。

「チョコレート……?」

カカシが聞いてもナルトは答えなかった。

「ねぇ、これ、誰にあげるの?」

ナルトは黙ったまま。

「あのさ、オレにくれるつもりだった?」

「もう、いいってば。」

「12時になるの待ってたの?だから、帰りたくなかった?」

カカシは無言のナルトに溜息を吐くと、それをリュックに戻して、ナルトに渡した。
ナルトは一瞬息を止め、それから、辛そうにそれを受け取った。

やっぱり……。
受け取ってもくれない。
オレの気持ち、やっぱり迷惑だったってば……。

ナルトは目を閉じ、リュックを抱き締める。

女の子に混じってチョコを買うのはとても恥ずかしかった。
だから、閉店間際、客があまりいない時を見計らって、それでもカカシが食べてくれそうな物を一生懸命選んで買った。
けれど、所詮、自分の想いなど、伝えられる筈も無かったのだ。
ナルトはゆっくりと立ち上がり、歩き出した。


「ナルト、今日は帰らなくていいよ。」

突然のカカシの言葉に、耳を疑う。

「え?」

「泊まって行きな。今お風呂入れるから、入って。パジャマはオレのを貸すから。」

「でも……。」

ナルトが戸惑っている内に、浴室に向かって歩き出したカカシが振り返って微笑む。

「ナルトがどうしたかったのか、知りたいんだよ。」





ナルトはカカシに言われるまま風呂に入り、カカシから借りたパジャマを着てベッドに腰掛けていた。
何処も彼処もブカブカで、袖も裾もまくり、大事そうにリュックを抱えてカカシを待つ。
程無くして、カカシも風呂から上がり、寝室へやって来た。
ナルトの横に腰掛ける。

「寒くない?」

「うん。」

ナルトの心臓はバクバクと脈打ち、今すぐにでも逃げ出したい程だった。
やがて、時計の針が12時を指した。

「ナルト、12時だよ。」

ナルトはゴクリと喉を鳴らすと、リュックの中から、さっきのチョコを取り出し、カカシに差し出した。

「カカシ先生、これ、貰って欲しいってば……。」

カカシはナルトの手から、それを受け取ってしげしげと見つめる。

「これを渡したくて、ここに来たの?」

ナルトは真っ赤になって俯いた。

「任務で会えるのに、わざわざ家まで来て。しかも一番に渡したくて12時になるのを待ってた……なんてね……。」

カカシの言葉に、ナルトは耳まで真っ赤になって、それでも、しどろもどろ話し始めた。

「カカシ先生の言う通りだってば。オレってば、先生に一番にチョコを渡したかった。誰よりも早く、渡したかったんだってば。カカシ先生、モテるから……。」

そう言って顔を上げれば、カカシは自分を真っ直ぐ見つめていた。
ナルトは目を逸らしたくなるのを必死で堪えた。

「ずっと昔は、一年に一度、女の子から告白出来る日だった……って、聞いたってば。だから、だからオレも、いいかな?……って。」

一年に一度だけ、誰でも告白出来るこの日ならば……。

「今日ならオレでも、カカシ先生にチョコを渡してもいいかな……って思ったってば。」

カカシは静かにチョコの包みを開けた。
中にはお酒入りのチョコが綺麗に並んでいた。
それを一つ手に取り、口に運ぶ。
ナルトはその様子をじっと見つめていた。

「ナルト、これを渡すだけで良かったの?」

ナルトはビクッと肩を震わせる。

「オレに、言いたい事……あるんじゃないの?」

ナルトは俯き、リュックをギュッと抱き締めた。

今だけ……今だけだってば。
折角カカシ先生が聞いてくれるって言ってるんだから……。
今だけ……。
また、朝になればいつも通り……。

ナルトは唇を震わせ、胸にしまい込んで来たその大事な言の葉を紡いだ。



「カカシ先生が……好き……。」



「ん?な〜に?聞こえなかったよ?」

絶対に聞こえた筈だった。
けれどカカシは、ナルトが勇気を振り絞って伝えた言葉に聞こえない振りをして、ナルトの口元に耳を近づけた。
ナルトは顔を上げ、今度は先程よりも大きな声で、言う。





「カカシ先生が好きだってば……。」





「そんな風に言われたらさ……。」

ずっとずっと伝えたかった想い―――。

「オレ、期待しちゃうよ?いいの?」

聞いて貰えただけで良かった―――。
でも……。

「これを、義理チョコだなんて思ってあげないよ?」

ナルトは怪訝そうにカカシを見つめた。
カカシの言葉の意味が、今ひとつ解らなかった。

期待する―――って、何?
何を期待するんだってば?
確かに義理チョコなんかじゃないけど……。

カカシはそんなナルトに苦笑すると、もうひとつチョコを取り、口に入れた。

「甘いね。」

「でも、お酒入ってるってばよ?え―――?」

ナルトがチョコの箱を覗き込んだその時、カカシに腕を掴まれ、引き寄せられた。

「せんせ……?」


「甘いよ。ナルトも食べてご覧?」


カカシはそう言うと、ナルトの顎に手をかけ、うっすらと開かれたその唇に己のそれを重ねた。

「ん……っ。」

硬直しているナルトの身体を抱き締め、歯列を割り、舌を差し入れる。
縮こまっている小さな舌を絡め取り、ナルトの口腔を犯す。
ナルトは何が起こったのかも解らず、息をすることも忘れていた。

「んっ……ん……んんっ!」

長い口付けに苦しくなり、身を捩り、カカシの背を叩くと、漸く解放される。

「はっ……はぁ…はぁ……。」

酸素を求め、肩を揺らしながら大きく息をしていると、カカシが涼しげな顔で微笑んだ。


「ね?甘いでしょ?」


「せんせ……今……今の……。」

完全にパニックに陥っているナルトの双眸から、涙が零れた。
カカシはそれを指先で拭い、ナルトをそっと抱き締めた。



「オレもね、ナルトが好きだよ?」



「え……?」

「ナルトが好き。チョコレート嬉しかった。ありがとう。」

「ほんと?」

オレ、言っても良かったってば?
カカシ先生を好きって言って良かったの?
それで……それで……カカシ先生もオレを……好き?

「ほんとだよ。勿論、部下としてなんかじゃなくね。ナルトが好き。思わずキスしちゃいたくなるくらいね。だからね、オレ以外の奴にはチョコあげちゃダメだよ?」

「せんせ……。」

ナルトはカカシにしがみ付いた。

夢みたいだってば。
カカシ先生がオレを好きだなんて……。

「サスケや、イルカ先生にも、あげないでね?ナルト。」

カカシが真顔でそう言うと、ナルトは思わず吹き出した。

「そんなの、当たり前だってば。カカシ先生だけにあげたかったんだってばよ。」

「ん。それ聞いて安心した。」

カカシがナルトの頬を両手で包み込み、もう一度その唇にちゅっと口付けると、ナルトは照れ臭そうに微笑んで、カカシの頬にそっと口付けた―――。









ナルトはそのままカカシの家に泊まり、一緒にベッドで眠った。
その日の朝はナルトがカカシを起こし、仲良く任務に向かった為、初めてカカシは集合時間に遅刻しなかった。
だが、案の定、ナルトが心配していた通り、朝からカカシはチョコレート攻めに合い、夕方には紙袋二つ分になっていた。

「おう、カカシ。」

報告書を提出に行くと、上忍仲間のアスマに声をかけられた。
カカシは片手を上げて答える。

「今終わり?」

「ああ、それにしても相変わらずだな……。」

アスマは紙袋を見て溜息を吐いた。

「でも、今年は少し少ないんじゃないか?」

「んー、受け取れないのもあったからね。」

アスマは一瞬考えてから、不思議そうに片眉を上げた。

「受け取れない―――って……断ったって意味か?」

「まぁね。」

「どうしてだ?本命のチョコは断ったってことか?」

その問いにカカシが苦笑すると、アスマは目を見開いた。

「おいおい。お前にも遂に春が来たのかよ?」

「そう言うこと。だから今年は義理チョコしか受け取れないの。」

その場を離れようとするカカシに、食い下がる。

「誰だよ。今まで誰にも落ちなかったお前を落としたのは。」

「んー?教えないよ。ちょっかい出されたら嫌だからね。」

カカシはうるさそうに手を振った。

「可愛いのか?美人か?」

その言葉に、カカシはピクリと反応して、アスマを振り返る。

「勿論。世界で一番可愛いよ。きっと大きくなったら美人になるね。」

「大きく―――って……カカシ!お前子供に手ェ出したのかよ!おい!」

「これからそのコとこれ食べるんだよ。悪いけど、帰るよ。」

カカシはそう言うと、煙と共に消えた。

「マジかよ……。」

一人残されたアスマは暫く呆然と立ち尽くしていたが、ハッと我に帰ると、『人生色々』へ向かって走った。





翌日、カカシとナルトが仲良く歩いているのを目撃した人物が居た。

「ナルト、まだチョコ残ってるよ。今日も食べるでしょ?」

「んーん、もういらないってば。昨日食べ過ぎてちょっと気持ち悪くなったってば。」

「ああ、一杯食べちゃったもんね。ま、腐るものでもないから、また食べればいいよ。」

「そうするってば。」

二人の会話を聞いたその忍によって、その日の内に里中に噂が広まった。
カカシの小さな恋人の正体は、里中の者の知る所となったのだった―――。





END








今更ですが、ナルトからの愛の告白話し。
カカシ先生は幸福者でしょう。
相変わらずの甘いだけのネタ。砂以外の物も吐けそうですね(笑)

火野 晶





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