あのねあのね先生
オレ特に欲しいモンなんてなかったんだけど

今年はひとつだけあるの

みんなには喜ばれない今日だけど
贅沢になっちゃいけないってもわかってるけど

……せんせー

オレね、どうしても今日は
せんせーといたいんだ。






























  オンリーワンデイ







 今、自分が出来る精一杯の力を用いて気配を殺し、
 今世紀最大に難易度の高い追尾を遂行中だ。

 夕暮れ。
 真っ赤に燃えた太陽が、西の地平線にのろく溶けていく。
 世界の色が全部同じに染まる、この時間。
 道も木も川も遠くの山も、皆よく熟した柿みたいな橙色。
 けれどもナルトの眼中には、美しい風景など微塵も無い。
 目線の先は、確りとある一点だけを捉えている。
 太陽に照らされた髪がそよそよと靡いた、そっちに目を奪われている。

 目標はゆったりと背を向けて歩いている。
 特に自分を撒こうとする意思も見受けられない。

 このまま家突き止めんだってばよ。

 ナルトは一人頷くと、木の幹からそうっと目標の後姿を窺った。

 相手の悠然とした姿勢は変わらない。
 自信か、それとも自分に対する見くびりか。
 多分どっちもだろうな、と、ちょっと腹立たしく思ったけれど、
 精神の乱れはチャクラの乱れをそのまま直接表してしまう。
 深呼吸をして、慎重に慎重に。
 目標の大きな後姿について行く。

 目標――大好きな、先生の。

 最初の印象は、黒板消し落としなんかに引っ掛かったマヌケな忍者。
 上忍のくせに、アンモナイトにだって通用しそうに無い罠なんかに、
 まんまと引っ掛かり珍しい銀色の髪を真っ白にして呆然と突っ立っていた。
 顔で出ているのは右目だけで、左目も口も覆われていて、
 サクラが言ったとおり、『見た目かなり怪しい』担当教官。
 自己紹介してくれと頼んだが、結局分かったのは名前だけ。
 そう、名前、だけだ。
 今でも。



 変な先生、という印象が、『カッコいい』に変わったのは、
 下忍合否のサバイバル演習の最後に聞いた、
 仲間を大切にしない奴はクズだ、という一言のせい。
 あのときのカカシは、うるうるするくらいにカッコよくて。
 あのときから、自分の中で何かが変わった。

 

 カカシは長身だけあって、歩幅も広い。
 ゆっくりゆっくり歩いているのだろうけれど、ちびなナルトにすれば早歩きのスピードで。
 気づけば小走りにならざるを得なくなっている。
 忍たるもの、気配を消して走ることなど造作も無いが、
 胸のドキドキを収める方法は、ナルトにはまだ分からない。

 背中を追っているだけなのに、こんなにも鼓動が早くて。
 こんなんじゃー肝心なトキどーすんだってばよ、と、歯噛みしたとき、
 ふ、と、カカシの姿が消えた。

「えっ、あ、あれっ……?」

 きょろきょろと辺りを見回しても、見つからない。
 気配を探ろうにも、つかめない。
 本気で気配を殺した写輪眼のカカシを見つけるなど、
 手練の上忍、若しくは暗部でも難しい。

「……やっぱ、気づかれちゃってたってばよ〜……」

 ナルトは大きな大きな溜息をつき、俯いてぎゅっと手を握り締めた。

 気づかれないで居られるとは思ってなかった。
 だけど、姿を消されてしまったことが悔しかった。

 一緒に帰ろうと言えなくて、こっそり後をつけてきた。
 どうしても今日は、今日だけは、少しでも多く一緒にいたくて。

 そばに居られなくても背中を追っている時間さえ、
 ナルトにとっては『一緒にいる時間』だった。

 だけどそれはぱちんと消えてしまった。

(やっぱ、しょーがねーんだってばよ)

 こみ上げてきた熱いものをごくんと飲み干して、
 俯いたままくるりと方向転換する。
 そして視界に入った、大きな脚絆。
 顔を上げると、今さっきまで探していた主、
 ニコニコ顔のカカシが目の前に立っていた。

「どわっ!」
「オレを尾行なんて百万年早いよ、ナルト」

 少し腰を屈めて覗き込まれる。
 丁度下忍合否試験の「ごーかっく?」のときみたいに。
 ナルトは口を尖らせ、早まる心臓を誤魔化し頭の後ろで手を組んだ。

 いなくなられたのじゃないことがうれしくて。
 咄嗟に、悪戯小僧に成り代わる。

「ちぇー。今日こそカカシ先生んち、つきとめてやろーと思ったのに」
「オレの家なんか突き止めてどーすんの」

 カカシは不思議そうに、少し首を傾げてナルトを見下ろした。

 深い青の右目。
 綺麗な色だな、と、思った。

「……いーじゃんか。センセーんち、遊びにいったって」
「は?遊びに行きたいならイルカ先生の家に行けばいーじゃないの」

 咄嗟に口走った、少し本音を交えた一言にも、
 カカシは不思議そうに当たり前の質問を寄越すだけだ。
 自分イコールイルカと出来上がっている図式は、今更訂正するのも可笑しい、
 カカシじゃなくても誰しもが同じことを言うだろう、当たり前のこと。
 けれど、ちょっと悔しくて。

「そーだけどよー。何で?カカシ先生んち、行っちゃだめなの?」

 頭の後ろで手を組み、口を尖らせてみた。
 カカシはボリボリと頭を掻き、「別にダメってことはないけどね」と、呟いた。

「オレの家に来て何すんの」

 またしても、疑問に思って当然の問いに、ナルトは一瞬口を噤む。
 カカシはまた不思議そうに見下ろしている。
 その顔色からは、別に迷惑だとか拒絶だとか、そういったものは見受けられない。
 暫し悩んで、ナルトは出来る限り自分らしく、つまり悪ガキっぽく答えた。

「センセー冷てーってばよ。いーじゃんかいーじゃんか。
 ちょっとは先生と教え子の心のキャッチボールはねーのかよ」
「キャッチボール……」
「そうだってばよ!」

 絶句したカカシにナルトはびしいっと指差してやった。
 カカシは顎に手をやり、何やら考え込んでいる。
 もう一押しでいいよと言ってくれるかも。
 ナルトはよっしゃと心の中でガッツポーズを取った。

「ねーいーだろー?ねーねーねー」
「……その為に一生懸命気配消してたのか?」
「だーって。コッソリ突き止めなきゃダメっぽかったんだもんよ」

 結局見つかっちゃったけどさ、と、恨めしく見上げてみた。
 我ながらうまい言い逃れだったと思う。
 カカシはやれやれと肩を竦め、ぼす、と、ナルトの頭に大きな手を置く。
 ぐしゃぐしゃとかき混ぜて、

「飯でも食いに行くか?」

 と、言った。
 一瞬、聞き間違いかとナルトは目を見開いた。
 けれどカカシは、にっこりと笑っている。
 ナルトはぱあっと表情を輝かせ、勢い良く返事した。

「うんっ!行くってばよー!一楽ね!」
「ホントにラーメン好きだなぁ……脚気になるぞ」
「カッケ?なんだってばそれ」
「やれやれ……」

 ガクリとカカシは項垂れる。
 ナルトはそこら中に?マークを飛び散らかせて、カカシを見ていた。
 少ししてカカシは、

「やっぱり、お前オレの家来なさい。飯作ってやるから」

 と、言い残してさっさと歩き出した。

「え、えっ!?何で!?いいの!?」

 勝手にどんどん遠ざかる背中を、それでも追いかけながら呼んだ。
 カカシはくるりと振り向き、

「教え子を脚気になんかしたら、三代目と四代目とイルカ先生に大目玉食らうから」

 と、決まり悪そうに笑い、「早く来いよー。置いてくぞー」と、また歩き出す。
 ナルトは暫くぽけっとしていたが、むずむずと体の奥から湧き上がる、
 全身弾み出してしまいそうな感情をかき集め、奥歯で噛み砕いて飲み込んだ。

「せんせー、待ってってばよー!」
「喚かなくてもいーから」

 今度は振り向かずに言ったカカシの声は、ちゃんと待っているよ、
 というふうにナルトには聞こえた。
 でも急いで大きな背中を追う。

 全く予想外の、いや、もしかしたら期待通りの展開。

 今日こそは絶対、『今日』だけでもって思ってた。










 カカシの家は、カカシが一人で住んでいるにしては広かった。
 必要最低限の家具がぽつりぽつりと配置され、
 壁にかけられているのは装飾品などではない、
 忍稼業に役立つのであろう小難しい忍文字で書かれた張り紙ばかり。
 内容は下忍のナルトには読めない。

 きょろきょろと落ち着き無く室内を見渡して、
 ふーんここがカカシ先生んちかーなんて感慨にこっそり耽ってみる。

「とりあえずその辺座って」

 ベストを脱ぎ、ソファの背にそのまま放り投げてカカシは言い、
 すぐそばのドアを開ける。
 ついていくとそこは寝室らしく、手裏剣模様の布団がかかっている
 シングルベッドが最初に目に入った。

「何でついてくんの」
「いーじゃんかー別にー」
「ま、かまわないけどね」

 苦笑しつつもカカシはドアを開けたままにしてくれた。
 とてとてとついて入ると、カカシは額当てを取り、クロゼットから適当な衣服を出している。
 そしていきなりアンダーシャツを脱いだ。

「わわ!せ、先生着替えんならそー言ってってばよー!」
「はぁ?何言ってんの、男同士なのに」

 慌てて背中を向けると、おかしそうなカカシの声がぶつかってきた。
 そーだけどさーとぶつぶつ背を向けたまま言う。
 衣擦れの音が続く。

 カカシのしなやかな上半身がぼんやりと瞼の裏に浮かんで、
 せんせーって男なのに、綺麗な身体してんなぁなんて思った。
 男相手に綺麗なんて言葉を使うなんて、ナルトには夢にも思わないことだ。
 でも、カカシにはいちいちその言葉が似合うと思う。

「こっち向いてても良かったのに」

 くすくす笑いながら、とん、と、肩に置かれる大きな手。
 ごく、っと固唾を呑んだ。

「も、もー終わったってばよ?」
「終わったよ」

 ドキドキする胸を、二度ほど拳で軽くたたいて。
 ゆっくり、ゆっくり振り返る。

 後ろには、くったりとした白いシャツとジーンズに着替えたカカシ。
 適当に止められた胸元から、銀のプレートがのぞいてる。

 口布も、額当てもしていないカカシ。

「何口開けてんの」

 薄い唇をきゅっと上げて笑う顔、初めて見た。

「……せんせー、口あったんだ」
「……何言うかと思えば……失礼だねお前」

 ぼん、と、ちょっと強い力で頭に手を置かれて少し痛かった。

「いてーってばよ」
「お仕置き」

 頭を抱えて文句を言うと、からからと笑ってカカシは先に部屋を出る。
 またとてとてとついていきながら、こっそりにんまり。

 ……サスケもサクラちゃんも、イルカ先生もきっと知らないんだろな。
 見れちゃったってば、カカシせんせーの素顔。

 それだけでも、もう最高。

「ナルト、飯作ってやるから座ってな」
「うんっ」

 元気良く返事をしたら、カカシは不思議そうに首を傾げた。
 ぴょこんと二人がけのテーブル、手前の椅子に座って、やっぱりにこにこしてしまう。

「急に機嫌よくなったな」

 冷蔵庫を開けて材料を取り出しながらカカシが言う。
 いいんだってばよ、と、返事をした。
 ふうんと返される、疑問符がついた一言に、心の中で内緒だってばよとつぶやく。

 カカシはどんどんどんと緑黄色野菜の類をテーブルに置いた。

「あーっ、先生ヤサイオレ嫌いって言ってんのにーっ」
「まーだそんなこと言ってんのか。オレの張り紙が可哀相だ」

 ナルトの講義もそっちのけで、カカシは器用にほうれん草を切っていく。
 しめじをほぐして、ひとまずザルに入れて。
 棚から取り出したのは固形コンソメの元と、マカロニ。
 コンソメをといた湯でマカロニを茹でる合間に、鶏肉を細切れにする。

「何作ってんの?」
「できてからのお楽しみ♪」

 背を向けたままカカシは何故か楽しそうで。

「お前、暇?テレビ見ててもいいよ」
「んーん、いらないってばよ」
「そ?」

 背中越しに指差された先には確かにテレビ。
 でも、今はいつでも見れる番組なんか見なくていい。
 滅多に見れないカカシを見ていたい。

 切った鶏肉を皿に置いて、今度はたまねぎ。
 とんとんとん、と、小気味良くなる包丁の音。

「たまねぎやだってばよー」
「煩いね。わかんないくらいになるから大丈夫だって」

 カカシはいったい何を作ろうとしてるんだろう?
 ほうれん草、しめじ、鶏肉にたまねぎ。
 マカロニは何に使うんだろう?

 マカロニが茹で上がると、カカシは茹で汁を少し残してざるに開けた。
 もうもうと立つ湯気。

「洗いモンくれーしよっか?」
「いい。座ってな」

 黙ってみているだけというのも何だか気が引けて腰を浮かせたのだが、
 即座に却下された。
 ぽふんと椅子に座りなおして、広い背中を見つめる。

 忍服を着ていないカカシの背中。

 熱したフライパンにバターをひいて、カカシはたまねぎを炒めている。
 しんなりしたら、ほうれん草としめじも入れて。
 それも熱が通ったら、鶏肉が入る。
 塩コショウを振りかけて、じゅうじゅうと歌うフライパン。

 いい加減で火を止めて、また棚を開けた。
 今度取り出したのはホワイトソースの缶詰。
 見た瞬間にピンと来た。

「分かった!グラタンだってばよ!」
「当たりー♪」
「すげー!オレさ、オレさ!グラタンなんて食べたことないってば!」
「お、そりゃ丁度いいね」

 くるっとこっちを向いて笑ったカカシは嬉しそうだった。
 素顔のままの笑顔はやっぱり綺麗で、
 ナルトはそれ以上に嬉しそうな笑みを浮かべる。

 フライパンにマカロニを放り込んでから、ホワイトソースを落としていく。
 たぷたぷした白い塊がフライパンの中を真っ白にして、
 部屋にいい匂いが漂った。

「いー匂いだってばー」
「オレの力作だからね」

 何気なく発された一言すら嬉しい。
 自分のためだけの力作。
 へへっ、と、思わず笑ってしまった。

 ソースにさっきマカロニを茹でた茹で汁をほんの少しだけ入れて、
 ざっざっとソースと具を和えて、塩で調味し、
 カカシは木べらについたソースを指で掬うと、

「味見て」

 と、その指をナルトに向けた。
 どきっとしてしまう。

「え、えーっ、ゆ、指舐めんの?」
「皿とるの面倒臭いんだもん」

 もん、なんて似合わない語彙を使う。
 ほら、早く、と、突きつけられた長い指先についたクリーム色のソースを、
 ナルトはどきどきしながらそっと舐めた。

 ふわっと香るバターの匂い、適度に効いた塩気。
 でも。

「……うまいってば……」
「オッケー。じゃ、焼いちゃおう〜」

 うきうきとカカシは大皿に作ったグラタンの具を移し変え、
 小さな短冊みたいなチーズと粉チーズをかけてオーブンへ放り込む。

「二十分。その間にサラダ作ってやるから」

 にっこり笑って背を向けたカカシに、ナルトは頷いてそそくさと椅子に座る。

 どきどきしてる。

 ソースの味なんて、ホントはあんまり分からなかった。






 二十分はあっという間に経ち、彩り良いサラダもグラタンも出来上がり。
 どん、と、目の前に置かれた熱い湯気を立ててぐつぐつと表面で気泡を破裂させる
 カカシ曰く『力作』のグラタンは、見るだけでも食欲をそそられる。

「すっげー!カカシせんせー料理うまいんだなぁっ」
「見直したか?」
「うんうんっ!ねねね早く食べようってばよ!」
「はいはい」

 皿やフォークを並べ終え、ナルトはジュース、カカシはビールで乾杯した。
 熱々のグラタンをよそって差し出されると、ナルトは勢いよく食いついた。

「いただきまーす!」
「どーぞ」

 香ばしく焦げたチーズと一緒に、とろとろのマカロニをはふはふと頬張る。
 嫌いなほうれん草もしめじもたまねぎも全く気にならないし、
 熱いホワイトソースがよく絡んでとっても美味しい。
 食べたことのなかったグラタンが、一楽のラーメンと並ぶくらい大好物になりそうだ。
 ましてやカカシの作ってくれたものなら、尚更。

「カカシせんせーすっげーうまい!」
「そりゃー良かった」

 ごくりとビールを飲み、カカシも自分の分を取り分けて食べ始める。
 にっこり笑ってどんどん食えと言われ、ナルトは嬉しくてしょうがなかった。

 期待通りなんてもう言えない。
 期待以上で、予想以上。

 嬉しい。
 すごく、嬉しい。

 あまり口数の多くないカカシだけれど、
 おしゃべりなナルトがたくさん言葉を投げればちゃんと受け取って返してくれる。
 楽しくて嬉しくて、二人きりで賑やかな食卓。
 美味しい料理は瞬く間にナルトの胃袋に収められて、
 たらふく食べたナルトはぷうと息をついてパンパンの腹を撫でた。

「ごちそーさまってば、カカシせんせー!うまかったー」
「お気に召して何より。頑張った甲斐があるってもんだね」

 カカシは三本目のビールを飲みながら笑い、

「デザート食えるか」

 と、冷蔵庫に手をかける。
 満腹だけれど折角用意されているのなら、と、ナルトはこっくり頷いた。
 カカシは冷蔵庫を開けて、中からあるものを取りだし、
 テーブルの真ん中、グラタンが入っていた今は空っぽの器をどけると、
 そこに置いた。

 あるものを見たナルトの目が、丸くなる。

 あるもの、は、小さめのショートケーキで。
 薄っぺらい長方形の板に、白いチョコレートで文字が書かれてある。

『ナルトへ。誕生日おめでとう』

「………カカシせんせー……」

 何で?

 当然の疑問が、口から滑り出た。
 カカシはすぐには答えず、ろうそくをケーキに突き刺していく。
 ナルトの年の数だけ刺し終えると、
 器用に指先だけ火遁の術の炎を灯し、
 ろうそくへと移していった。

「電気消すよ」

 一旦席を立ったカカシの言葉の後、電気が消される。
 闇の中でゆらゆら揺らめくろうそくの炎が、とても綺麗だった。

 呆然としているナルトの前に再び座ると、特別だぞ、と、カカシは言って、
 ゆっくり歌を歌いだした。

 Happy birthday to you
 Happy birthday to you
 Happy birthday dear NARUTO
 Happy birthday to you

「ホラ。ろうそく消しな」

 急かしつけるカカシは、照れくさそうに苦笑いしていた。
 ナルトはビックリして、身動きができない。
 いつまでも固まっているナルトに首を傾げたカカシに、
 漸く一言言えた。
 さっきと同じだけれど。

「何で?」
「教え子の誕生日くらい知ってるよ」
「いつ買ったの?」
「今日の昼」
「最初っから?」
「ま、ね。お前の言うとおり、先生と生徒のキャッチボールに絶好の場でしょ?」

 事も無げにカカシは言いのけて、揺れる火に照らされたナルトに微笑んだ。
 それでもナルトは何も言えなかった。

 一度飲み込んだ熱いものとは、同じだけれど質の違うそれがまた湧き上がってきて。
 今度は飲み込めなかった。

 ぽろ、と、涙がこぼれた。

「な〜に泣いてんの」
「だって……」
「早く消せって。ロウがケーキについちゃうぞ」

 ごしごしと涙を慌てて拭って見れば、ろうそくはいつの間にやら随分短くなっている。
 大きく息を吸い込んで、一気に吹いた。
 全部が同時にふっと消える。
 暗闇の向こうでぱちぱちと手を合わせる音がして、

「おめでとさん」

 大好きなひとが、そう言った――。










 予想以上も期待以上なんて言葉も使えない。
 ただ一緒に居られればいいと思っていた自分にとって、
 それはとてもとても幸せなハプニング。
 初めて食べたグラタン、初めて来たカカシの家、
 初めて見たカカシの素顔に、
 初めて、お祝いしてもらった誕生日。
 大好きなひとに。

 今年の今日は夢にも思わなかった特別が待ってた。







「ありがとってば、カカシせんせー……」
「どう致しまして」







 大好きだってば。







 サクラに対するものとも、イルカに対するものとも違う、その『好き』を。
 今は言えないけど、いつか言えたらいい。








 来年の誕生日を、迎えるまでには。





















『Lasting Song』(『ODDEYS.egoism』)様で、フリーだった素敵小説、頂いて参りました。
ナルトのいじらしさにノックアウトですv
可愛い〜〜〜vvv
カカシが大好きで、尾行してまでも一緒に居たいなんて……なんて健気なんでしょう。
そして、そんなナルトを受け止める大人で素敵なカカシ先生vvv
ナルトの為にグラタンを作り、ナルトの為にケーキを用意し、歌までプレゼント。
優しくって、とっても素敵〜〜〜vvv
甘くて、とっても幸せな気持ちになれるお話。
くさもち様、有難うございました。





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