そんなに笑顔を振り撒かないで……。

これ以上ライバル増やされたら心配で眠れなくなっちゃうでしょ?

お前はオレのモノなんだから、いつまでもこの腕の中に居てね?









ただひとりの存在








「カカシ先生、今日は上忍の任務あるってば?」


7班としての任務が終わり、カカシが解散を告げると、ナルトはカカシを見上げてそう尋ねた。


「ん……まぁね。」


現在里は人手不足で、否応無しに任務が増えている。
それは仕方の無いことだとカカシは重々承知だが、恋人のナルトと過ごせる時間が減るのはやはり辛い。
ナルトも同じ気持ちらしく、カカシの答えを聞くとしょんぼりと俯いてしまった。

「……きたかった……てば。」

「え?何?ナルト。」

ぽつりと呟いたナルトの言葉が聞き取れず、カカシは腰を屈めてナルトを覗き込んだ。

「新しいラーメン屋さんが出来たんだってばよ。カカシ先生と行きたかったってば……。」

「ああ、そうなの?それくらいなら大丈夫だよ?」

「ほんと?」

途端にナルトの瞳が輝く。
カカシは眩しそうに目を細めながら、ナルトを見つめた。

「任務は夜だからね。それまでは空いてるから。報告書出したら一緒に行こっか?丁度夕飯の時間になるし…。」

「行く行く!カカシ先生大好きーっ!」

カカシは自分の腰に飛びついたナルトを抱え上げると、報告所に向けて疾走した。















「あそこか……。」


カカシは少々げんなりした様子で呟いた。

ナルトが言っていたラーメン店は、オープンしたばかりと言うこともあって行列が出来ている。

「すごく混んでるってば……。カカシ先生、時間大丈夫?」

不安そうに見上げるナルトにカカシはニッコリ微笑んだ。

「だ〜いじょうぶだよ。」

ナルトのやわらかな金糸をくしゃっと撫でれば、小首を傾げて微笑み返して来る。



あ……やば……。



カカシはそっと手を離す。




ここん所ご無沙汰だからねぇ……。
ナルトにちょっとでもいつもと違う顔を見せられると、やばいね……。
今すぐにでも襲っちゃいそう……。



カカシはマスクの下に隠れている口元に手をやりながら、視線を泳がせた。



「ゴホッ……。ナルトくん、久し振りですね。」

その声に振り向けば、自分達の横に顔色の悪い男が立っていた。




あらら、まずいね。
気配に気付かなかったよ……。


ナルトのあられもない姿を想像していたカカシは、それを打ち消すように軽く咳払いをする。




「あ、ハヤテ先生、先生もラーメン食べに来たってば?」

ハヤテはカカシに軽く会釈をすると、列に並んだ。

「ええ、美味しいと聞きましたので……。」

「この前ハヤテ先生に連れてって貰った甘味屋さんも美味しかったってば。」

「そうですね、また行きましょうね。」

「行くってばよ!」


カカシは呆気に取られながらその会話を聞いていた。
ナルトとハヤテに面識があるのは勿論知っていたが、一緒に甘味屋さん……など初耳だ。


「ナルト、ハヤテと出かけたの?」


感情を殺しながらカカシが問うと、ナルトはニコニコとしながら答えた。

「甘味屋さんに連れてって貰ったってば。」

「オレ、聞いてないけど?」

「カカシ先生はあの時上忍の任務に行ってたってば。オレってばイルカ先生に会いにアカデミーに行って、その帰りにハヤテ先生に会ったんだってばよ。」

「そう……。」

かなり面白くないが、偶然ならば仕方ない。
可愛いナルトを誘いたくなるのも無理も無いだろう。


でも、ナルトにはちゃ〜んと教えとかないとね。
オレ以外の男と無闇に出かけたりしちゃいけないってことをさ……。
丁度明日は上忍の任務も無いことだし……。
しっかりと……教えといてあげるからね。


自分を見つめるカカシが頭の中でよからぬことを考えていることも知らずに、ナルトは楽しそうにハヤテと話していた。





「よう、ナルト。」

「あ、ゲンマ先生!」




なんだんだよ、一体……。





今度はしっかりとゲンマの気配に気付きながらも無視を決め込んでいたカカシが、うっとおしそうに振り向いた。


長い楊枝を咥えたゲンマがカカシに向かって『どうも』とだけ挨拶をしてハヤテの後ろに付いた。

「ナルト、ゲンマとも知り合いなの?」

「え?何言ってるってば、カカシ先生。中忍試験で会ったってばよ?」

「それは知ってるけど……。」

カカシがそう言った時には、ナルトは既にゲンマと楽しそうに話し始めていた。

「今日もラーメンか。お前ほんとにラーメンが好きだよな?」

「ラーメンは勿論好きだけど、この間ゲンマ先生に連れてって貰った店の料理も美味かったってばよ!」




なんだって!?




カカシの目が驚愕に見開かれる。




「ああ、そうだろ?やっぱり和食が一番さ。今度また懐石料理の店に連れてってやるよ。」

「ほんとだってば?」

キラキラと瞳を輝かせているナルトを、カカシが後ろから抱きすくめる。

「ナ〜ルト。」

「なんだってば?カカシ先生。」

ナルトが振り向いてカカシを見上げる。

「お前、ゲンマなんかとも食事に行ったの?」

「行ったってばよ。あん時もカカシ先生居なくって。修行の帰りにゲンマ先生に会ったんだってば。」

「へぇ〜、そう。」


『特別上忍ってのは暇だねー。』と言う嫌味はなんとか飲み込んだものの、カカシのイライラは募るばかりだった。


全く……。
油断も隙もあったもんじゃないね。
いつの間にそんなに気安く話せるようになったの?
二人ともオレのナルトを監視でもしてるんじゃないの?
監視って言うかストーカー?
そうとしか考えられないね。
オレの居ない時に都合良くナルトとデートするなんて。


『デート』と言う単語が頭に浮かんだ時、カカシの不快指数は一段と上がっていた。





「カカシ先生、入るってばよ?」


カカシが内心ギリギリと歯軋りをしている間に、ナルトは空いたテーブルに向かって歩き始めていた。
カカシは慌てて後を追うように店に入る。
そこは4人掛けのテーブルで、丁度4つ共席が空いており、カカシとナルトの後ろに付いていたハヤテとゲンマが当然相席になった。




だから何だってこいつらと一緒なわけ!?



「ナルト、何がいい?」

心の中では怒りの炎を燃やしつつ、ナルトに向ける笑顔は極上のもので、それを偶然見た店の女性客数人の目は瞬時にハートマークになっていた。
勿論カカシの眼中には無い。


「う〜ん、オレってばやっぱり味噌!」

「味噌ラーメンね。オレは醤油にしよっかな。」

「では私は塩で。」

「オレはとんこつね。」



お前らには聞いてない!!



心で叫びつつも店の時計をちらりと見れば、もうそんなにゆっくりしてはいられない時間になっていた。


まぁ、今日の任務は大したこと無いからいいけど……。
歓楽街へ行く金持ちのおぼっちゃんの護衛か……。
こっちはナルトと愛し合う暇も無いってのに……。
なんでこう言う時に限って暗殺任務じゃないのかねぇ。
今日はピッタリの気分なのにさ。
大体その方がサクサクッと終わらせて早く帰れるのに……。



カカシは、どうやって早く帰ろうかと悶々と考え込んでいた。




「味噌の方ー。」

「はいはい、オレー。」

ナルトの声でカカシは現実に戻って来た。
残りの3つもすぐに運ばれる。

「うわー、美味そうだってば。いただきまーす!」

「慌てて食べて火傷するなよ?」

カカシが苦笑しながら箸を割ると、ナルトはもうラーメンを口に入れていた。

「美味いってばよー。」

満面の笑み。



ああ、可愛いねー。
こっちまで幸せになれるよ。


ふと気付けばハヤテとゲンマも目尻を下げてナルトを見ていた。




なんでお前等に可愛いナルトのお食事タイムを見せなきゃいけないわけ!?




カカシは怒りにまかせて猛スピードで醤油ラーメンを平らげた。


「せ、先生、早いってばね。」

「ん、もうそろそろ行かないといけないからさ。」

「えっ!?わ、もうこんな時間だってばよ!」

ナルトも時計を見て、慌ててラーメンを食べようとするが熱い為四苦八苦している。

「無理しなくていいよ、ナルト。ゆっくり食べな?オレは勘定済ませて先に行ってるからさ。」

「そうですよ、ナルトくん。食事はゆっくり摂った方がいいですよ?」

ハヤテが微笑むと、ナルトは塩ラーメンを見つめる。

「塩も美味そうだってばよ。」

「ええ、美味しいです。食べてみますか?」

ハヤテが自分のラーメンどんぶりをナルトの方へ寄せる。

「えっ!?いいってば?」

「オレのとんこつも美味いぜ。食べてみろよ。」

すかさずゲンマも自分のラーメンどんぶりをナルトの前へ置く。

「それも美味そうだって思ってたってばよ!じゃあさ、じゃあさ、二人ともオレの味噌も食べてみてってばよ!」

ハヤテとゲンマが心の中でガッツポーズをしたのは言うまでもない。

一人、カカシだけが額に血管を浮き上がらせていた。






来るんじゃなかった。

ナルトは喜んでるけど、とっても可愛く笑ってるけど、家で新製品のカップラーメンをふたりきりで食べた方がよっぽど良かったよ。



『ナルト〜、こっちのも食べてごらん?はい、あ〜ん。』

『カカシ先生、こっちのラーメンも美味いってばよ。はい、あ〜んだってばよ。』



カカシはガタンと席を立った。


「カカシせんせ?」

「ごめんね、ナルト。もう行かなくちゃ。」

途端にナルトが顔を曇らせたが、怒り心頭に達しているカカシはそれに気付かない。

「そうですか。お気を付けて。」

「ナルトはオレ達が送って行くから、心配ないぜ。」

「それはどうも。」

カカシは二人に冷ややかな視線を送った後、スッと屈むと、ナルトの顎に手をかけた。



「え?せんせ……。」



素早くマスクを外し、ナルトの桜色の唇に軽く口付ける。

これには流石の二人も目を丸くした。
ナルトは真っ赤になって、慌てて握りこぶしで口元を隠す。


「な、何するってば!」

「ん〜?キスしただけでしょ?」

「だ……だけって……。こんなとこで……皆が居るのにっ!」

ナルトは涙目になって叫ぶ。

「だから舌は入れなかったじゃないの。」

「カカシ先生のバカッ!!」

カカシは伝票を掴むと、ハヤテとゲンマを見下ろした。

「オレのナルトをちゃんと家まで無事に送り届けてくれることの、これは手間賃だから。」

「いえ、それはいけません。ナルトくんを送るのは当然で……。」

「そうだぜ、ナルトを送るのは当たり前の……。」



「オレのナルトを送って貰うんだからさ、お礼位させてよ。」



カカシはうっすらと微笑むと、さっさと会計を済ませて出て行ってしまった。




オレのナルトだから、他人のお前らにはただでは世話にならない―――。





カカシの声が聞こえて来るようだった。


『ナルトくんも苦労しますね。』

『……だな。独占欲の強さもここまで来ればな……。』


ふたりは聞こえない程小さな声で話した後、軽く息を吐いてナルトを見た。
ナルトは唇を噛み締めて、大きな蒼い瞳に涙を浮かべながら真っ赤になって俯いていた。





か、可愛いっ!!




ハヤテとゲンマはラーメンが冷めるのも構わず、ただひたすらナルトを見つめていた。












翌日、いつもと変わりなく7班は任務をこなしていた。
今日の任務は森の中での山菜取り。

昼休みに弁当を食べた後、ナルトはカカシを探した。
カカシはナルト達から離れた場所で木の根元に腰を下ろし、いつもの愛読書を読みふけっていた。


「昨日はちゃんと送って貰った?」

ナルトが近付くと本から目を上げずに話し掛けて来る。

「うん。送って貰ったってばよ。」

そう答えて隣に腰を下ろしてもカカシはまだ本から視線を上げようとしない。
ナルトは唇を噛み締めて、カカシの袖口をそっと掴んだ。


カカシは漸く顔を上げ、にっこりと微笑む。

「ナルト、おいで。」

自分の膝を叩いて促せば、ナルトは嬉しそうにカカシの膝の上に向かい合って座った。

「カカシせんせ……。」

目を閉じ、カカシの胸にしがみ付く。

カカシはナルトをそっと抱き締め、優しく囁いた。

「どうした?今日は甘えたいの?」

「先生、怒ってないってば?」

「え?」

聞き返せば、ナルトが不安気に顔を上げた。

「昨日、怒ってたってば?急に帰っちゃったし……。オレ……カカシ先生に嫌われちゃったらどうしようって……。」

「ナルト……。」

カカシはナルトをギュッと抱き締めた。

「ごめんね、ナルト。お前を不安にさせたりして……。怒ってなんかいないよ。お前を嫌いになんて絶対にならないから……。」

「ほんと?カカシ先生。」

「ああ、本当だよ。昨日はね、ハヤテとゲンマに妬いちゃったの。」

「ハヤテ先生とゲンマ先生に?」

カカシはナルトを抱き締めていた両手を離すと、苦笑した。

「仲良さそうに話してたからさ。オレが居ない間に―――ってね。」

「そ、そうだったってば?」

カカシはマスクを下ろすと、目を丸くして頬を染めるナルトの唇にチュッと音を立てて口付けた。

「ごめんね?ナルト。」

「だからあんなイジワルしたってば?」

「イジワル?」

「ラーメン屋さんで……皆居るのに……。」

ナルトの頬が真っ赤に染まる。

「ああ……キスしたこと?んー、まぁ、そうだな。ナルトはオレのモノ―――って、解らせたかったの。」

ナルトはカカシに抱きつくと、広い背中に両手を回した。

「先生、大人気無いってばよ。」

「はいはい。」

ナルトがくすくすと笑っているのがわかり、カカシはバツが悪そうに頭を掻いた。




ほんと……自分でもそう思うけどね……。
お前のこととなると、どうにも冷静でいられなくなるのよ……。





「お前しか……見えなくなるんだよねー……。」





カカシがぽつりと呟いた。




ナルトは背中に回している両手に力を込めて、カカシをギュッと抱き締める。

「カカシ先生、これからもずっとオレを見ててくれるってば?オレ、頑張って早く先生に追いつくから、絶対見ててよ?オレってば、絶対強くなるから。」

「ああ、勿論ちゃんと見てるよ。だから強くなりな?」




そうして……いつかオレの手の届かない所へ行っちゃう気なんでしょ?




カカシが目を閉じると、ナルトは抱き締めていた両手を離して今度はカカシの顔を掴んだ。
イキナリのことに、カカシが目を見開く。



「大好きなカカシ先生が見ててくれてるって……例え、先生が遠くの任務に行っちゃって離れてても、それでも先生はオレを見ていてくれるって思って……カカシ先生が居るから、オレってば頑張れるんだってば。」




「ナルト……。」

「オレ、優しくされたことなんて無かったから、イルカ先生に出会って凄く嬉しかったし、ハヤテ先生やゲンマ先生みたいに優しくしてくれる人が大好きだってばよ。でもさ、カカシ先生……。」



ナルトはそこで言葉を切ると、もう一度カカシにしっかりと抱きついた。



「カカシ先生は違うんだってばよ?カカシ先生は他の人とは全然違う。誰もカカシ先生の代わりになんてなれないし、カカシ先生が一番大切だってばよ。」

「ナルト……お前……。」


そんな風に想っていてくれたの?




「だからカカシ先生に、これからもずっと、一番近くでオレを見てて欲しいってば。」




呆気に取られているカカシに、今度はナルトが口付けた。
軽く、啄ばむようなそれ。



ナルトは唇を離すと、照れくさそうに微笑んだ。






オレは何て大人気無いんだろうね。
お前の言う通りだよ……。
こんなオレでも、お前は―――ただひとりの存在―――として、好きでいてくれるの?





「ナルト……。」


カカシが見つめると、ナルトはそっと目を閉じた。
誘われるまま、カカシはナルトの唇に己のそれを重ねる。

「ん……っ。」

うっすらと開かれた唇から、熱い舌を差し入れれば、素直に応えて来る。

くちゅ…。ちゅぷ…。

「ん…んぅ……。」

久し振りの二人だけの甘い時間。
カカシは欲望の赴くまま、ナルトを柔らかな草の上に、そっと横たえた。
ナルトの上に覆い被さると、思う様その唇を堪能する。

「ナルト……好きだよ、ナルト。愛してる……。」

「ん……せん…せ……。オレも……。」


カカシはナルトの上着に手をかけ、ファスナーを下ろそうとして……そして、手を止めた。

珍しく、このまま事に及んでもいいと思っていたナルトが不思議そうに見上げる。

「せんせ?どうしたってば?」

「ん?続きは家に帰ってからゆっくりね。今日は上忍の任務は無いから。」

そう言いながら身体を起こすカカシを、ナルトはまだ不思議そうに見つめていた。







「それとも、このまま見せ付けてやろうか?サスケにさ。」






軽く片目を閉じて見せれば、漸くその気配に気付いたナルトがガバッと起き上がった。

「サスケっ……い、いつから居たってば?」

少し離れた木に凭れかかり、サスケはカカシに鋭い視線を送っていた。

「いつからだっていい。それより時間だ。この、エロ上忍。」

そう言うとくるっと踵を返して行ってしまった。



「んー、見られちゃったね、ナルトの可愛くってHな顔。」

「カカシ先生のバカッ!」

真っ赤になって俯くナルトを見ながらカカシは苦笑する。







こんな近くにも居たっけねー、油断出来ない相手がさ……。







お前がどんな言葉を紡いでくれても、きっといつまで経ってもこの不安からは解放されないんだろうけれど……。










「ねぇ、ナルト。一緒に住もうか?」










少しだけ、オレは有利なんだって……思わせてよ、ナルト―――。









ナルトはびっくりしたようにカカシを見上げ、そして……、恥ずかしそうにコクリと頷いた―――。








END









『わたなべ屋』様との相互記念に押し付けてしまいました。
わたなべ様からリクエスト頂いたのは、「いっちゃいっちゃの甘々。とにかくカカシ先生がナルトラブ!なお話」だったのですが、コンセプトはなんとかクリア?とにかく甘ったるいですね(笑)。しかし、相変わらずのヘタレカカシと乙女ナルトで申し訳ありません(汗)
こんな駄文ですが、わたなべ様、貰って下さって有難うございました。ペコリ<(_ _)>

火野 晶




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